参加記(3):歴史研究の成果を世間に還元するには?

参加記(2):明日から始める情報発信の続き。

「明日から始める情報発信」のセッションが早くまとまったので、岡本さんとミュンスター再洗礼派研究日誌のsaisenreihaさんの雑談「暦女歴女ブームなのに、日本歴史学会はなんで歴女を学会に取り込まないの?300人の女子が学会にいればそれだけでいろいろとアピールできるのに」を聞きつけ、歴史研究の成果を世間に還元する話は面白そうだと考えてsaisenreihaさんにセッションをお願いした。セッションタイトルは「歴史研究の成果を世間に還元するには?」

まずは、saisenreihaさんの研究内容を説明してもらう。saisenreihaさんのブログタイトルにあるとおり、研究対象はミュンスター再洗礼派について(参考:wikipedia.ja:ミュンスターの反乱)。これが、ヨーロッパでも屈指の奇妙な事件とのこと。時系列だけを追っていってもかなり面白いストーリーなそうな。

そこで、思いついたのが次のアイデア。「日本の漫画、小説、ゲーム、ドラマ業界はネタ切れ気味なので、Japanエンターテイメント復興という名目で、歴史研究の成果を漫画、小説、ゲーム、ドラマのネタとして提供したらよいのでは?」というもの。「歴史の研究なんて趣味でやれ!」という声を逆手にとり、「歴史の研究の意義はみなさんの趣味・娯楽を支えるため」と理屈を転換して、社会における位置づけを払うのはいかがかという発想。

たとえば、経済産業省などのサブカルチャー振興系の助成金に申請し、西洋史研究者20名ぐらいで、自分の研究対象である「絵になる」「話のネタになりやすそうな」「いろいろと妄想が膨らみそうな」歴史エピソードを厳選し、その時代や場所を舞台にした漫画、小説、ゲーム、ドラマを作るのに必要な資料を用意。そして、「ドラマチック西洋史特選20!」などと銘うって、2日くらいのセミナーを開く。参加者として、芸大や漫画や脚本家の専門学校、アニメスタジオや出版社にダイレクトメール(プレスリリース)を打つ。で、漫画家、脚本家、小説家、ゲームシナリオライター(の卵)に向けて、見せ所、泣き所などを熱く説明したら、あとは、才能ある人が良きように作品を作ってくれるのではないか。

漫画家、脚本家、小説家、ゲームシナリオライターになりたい人はたくさんいて、面白くなりそうなネタを鵜の目鷹の目で探しているのだから、それを歴史研究者側からガンガン提供してあげれば、「歴史の研究の意義はみなさんの趣味・娯楽を支えるため」といえる日がくるのではないかと思う。もちろん、「歴史をビジネスおよび政治に活かしたい」という要望にもこたえて、「ためになる西洋史特選20!」などのセミナーも用意し、ビジネス書の著者にネタを提供したらいい。

saisenreihaさん曰く、研究成果を新書の形でまとめることなどあるが、歴史の研究者で研究成果を漫画、小説、ゲーム、ドラマのネタとして提供することを考えている人は多分いないだろうとのこと。

また、セッションの他の参加者の方から漫画家、脚本家、小説家、ゲームシナリオライター向けの歴史ネタ提供ポータルサイトなどを用意したら良いのではないかという意見もでた。

追記

はてなブックマークのコメントより。前向きな意見に感謝いたします。

  • trinh 雑談のネタとしては定番の話だな。真面目に実行した人は殆どいないと思うけど。ただ、研究者のやってること・責任持って提供できる情報と創作者が欲しがってる情報にはかなりギャップがあるんだよなぁ。

研究者のやっていること/責任もって提供できる情報と創作者の欲しがっている情報のギャップを知るためにもこういうイベントを一度でもやった方が良いと思います。少なくとも、研究者は調べたい文献のポインタとなることができますから、それだけでも、創作者にとっては悪くない情報であると思います。

  • minazuki6 クリエイティブのネタ元にするのはすごくいいアイデアだと思う。 考証がしっかりしてるフィクションは世界観に厚みがある。 最大の問題はネタを厳選・提供する側にセンスが必要なことだ。

下手な鉄砲も数打ちゃ当たる方式にならざる得ないかと。研究者がおもしろいと思っていることに創作者側が興味をしめすかどうかはわかりません。もしかしたら、研究者が追加的に提供した情報に食いつくかもしれません。でも、そもそも、そのテーマに触れることがなければ永遠に知らなかったかもしれないですから、うまく料理してくれる可能性のある人に向けて情報をとにかく送り出すのが重要だと思います。

  • betelgeuse たとえば伊達政宗は種々のエピソードに彩られているが、ごく近年にみやげ物を売るために付け加えられた伝説が多いので注意

これは、むしろネタになるのでおいしい事例かと。たとえば、日本では吉川英治三国志三国志演義三国志の中心的なイメージになりましたが、これを史実に合わせる、あるいは逆の見方をするというだけで、さまざまな創作ネタが生まれました(陳舜臣の秘本三国志とか、蒼天航路とか、宮城谷昌光三国志とか)。学術的な事実と伝説のギャップをうまく料理できる人は必ずいます。