ソフトウェアハウスに勤めたことがないので仕様書というものがどういうものかわからない。なので、本書を読んでみた。本書は仕様書の書き方ではなく、仕様書に対する考え方や姿勢に重点をおいてかかれた本。筆者曰く、仕様書の書き方自体は様々な書籍で述べられているので本書ではそれらの書籍で触れられない部分にスポットを当てたとのこと。筆者はソフトウェア開発者側の「客が悪い」「営業が悪い」などの「〜が悪い」と言い立てて仕様書を書かないという風潮に対してとても憤りを覚えているらしく、このような風潮を批判するとともに、ソフトウェア開発はサービスを提供するものなのだから、顧客に寄り添う姿勢を見せないといけないと述べている。この部分が私の感覚からすると少し説教臭く感じた。
全部で5章構成。章タイトルは以下のとおり。
- もう「書けない」とは言えない
- コミュニケーション力を鍛える
- 文章力を鍛える
- 文書力を鍛える
- メンテナンス力を鍛える
第3章、第4章は注意すべき点が簡潔にまとめてあり、レポートや卒論のチェックリストとして使えると思った。第5章の「メンテナンス力を鍛える」は論文執筆にない視点なので、技術文書やWebページ作成の際に役立てたい。
3章では、単語、文、文章、文書の定義を述べ、その後、それぞれについて注意すべき点を列挙している。
- 単語:一つの単語
- 文:単語を文法にしたがってならべたもの。
- 文章:あるトピックを述べるために複数の文をまとめたかたまり
- 文書:文章を集めて作った書類
単語に関する注意点はシンプルに「辞書をつかえ!」。
文に関する注意点を私なりに解釈すると以下のとおり。
- ネガティブ表現よりポジティブ表現。「〜はできない」ではなく「〜ならできる」
- 主語の省略をするな
- 受動態より能動態をつかえ
- 主語と述語を一致させろ
- 一文に複数の述語を使うな(主語と述語は1対1になるよう気をつける)
- 「〜的、〜風、〜性、〜調」などを多用するな
- 修飾語、形容詞、副詞の修飾先をはっきりさせろ
- 形容詞(長い、重い、早い、など)や形容動詞(綺麗な、新鮮な、など)を使うときには量をはっきりさせろ
- こそあど言葉を使いすぎるな
- カタカナ表現はできる限り避けろ
- 複合熟語は曖昧になりがちなのでよりわかりやすい表現にかえろ
- 一文は短くしろ
- 逆接、順接の接続詞が本当に必要かどうかをチェックしろ
- 主語がどれなのかわかりやすくしろ
- 主語と述語はできるかぎり近くに配置しろ
- 目的語を落とすな
- 二重否定文は肯定文に書き換えろ
- 引用符を適切につかえ
- 体言止めを使うな
文章に関する注意は、文に関する注意に比べるとそれほどまとまっていないように感じた。私が重要だと思ったのは以下の二つ。
- その文章で述べたいポイントを絞れ
- ある意味を表す単語は一つに統一しろ(1文書中に類義語を多用するな)
文書についての注意点で参考になったのは文書の種類とそれらを書くときの注意点。本書で紹介されていた文書の種類は以下のとおり。
- 要件定義書:要件が書かれている文書。
- 提案書:ソフトウェア開発者側が顧客に出す文書。
- RFP(Request for proposal):顧客がソフトウェア開発者側に出す文書。
- 計画書:プロジェクトの進め方が書かれている文書。
- 手順書:作業の手順がかかれた文書。
当然のことだけれども、論文やレポートをしっかり書けるならば、仕様書作成の際に求められるスキルの基盤を身につけていると理解してよいと思う。ソフトウェア開発者側に就職希望の人は、論文執筆に真剣に取り組もう。無駄にならないみたいよ!