良い経済学 悪い経済学

とても衝撃的だった一冊。10年前以上のクリントン政権発足時に巻き起こっていた「競争力論争」に対して書かれた本。批判対象の意見が、今の日本のニュースやインターネットやテレビでみる経済関連知識人の発言とものすっごく被っているのが怖い。

  • 国と企業は違う。なので、国同士があたかも巨大企業のように覇権を競い合っているというたとえは不適切
  • 競争力という言葉が非常にあいまい。競争力=生産性とした場合、生産性が向上すると賃金も上昇するので、自由貿易の下ではバランスされる
  • 貿易を行う場合にはある製品やサービスが絶対優位である必要はない。その製品やサービスが比較優位であれば貿易が可能となる
  • 国際貿易はゼロサムゲームの世界ではない。プラスサムゲームの世界である
  • ただし、所得の分配を考えると国内で得をする分野と損をする分野が存在する
  • アジアの奇跡は投入資金に応じた奇跡であり、経済学的に説明可能(これは中国も同じ?)
  • 貿易が国内のGDPに占める割合は思っているよりも少なく、安い製品の輸入によって国内全部の製造業の賃金が下がるということはほぼ考えられない。

これが経済学における世界標準だとしたら、テレビや新聞、インターネットで飛び交っている「日本は競争力を持たなければならない」といういろんな言説は一体何?

大学人としては、13章が衝撃的。十分に技術と工業化が進んだ場合、むしろ知識労働の必要性が失せ、「当たり前」の仕事が復権するという予想。たとえば、床屋とか庭師とか。理屈から言えば確かにそのとおり。そんな時代には大学は超エリート養成期間になるか、再び象牙の塔へと戻るかしかない。今の大学進学率はある意味で過渡期と言えるのかもしれない。