アカデミック・ハラスメントの裁定機関が欲しい

一つ前の記事を書くときに見つけたOKwaveの質問。すっごい悩ましい。

私は、とある理系の大学に所属している大学4年生です。私は、卒業研究で、ある研究室に所属しているのですが、一日の拘束時間は8時間以上です。一年間に直すと2000時間以上の研究活動の求められます。
しかし、文部科学省推奨の授業要覧(シラバス)には、「卒業研究の単位を取得するには、180時間を目安とする。ただし内容を加味する」と書かれています。この通り、目安を大幅に超えての研究内容を求められます。
私は、文系就職を考えているため、相当数の就職活動を行わなくてはなりません。そして、昨日このまま就職活動を行えば、卒業させないといわれました。
これは、アカデミックハラスメントになるのでしょうか?

「就職活動をやめないと卒業させない」と伝えるのはアカデミック・ハラスメントだと思うけど(「ある程度の成果がでないと卒業研究として認めないよ」と言わないと)、それ以外の点はすごく悩ましい。

卒業研究についてのエントリーでいろいろ書いたとおり、卒業研究は研究の真似事を経験してもらうものだと私は思っているので(私の周りの先生方は全員こう思っているみたい)、卒業研究の成果そのものよりも、過程を評価する。もちろん、成果が新規的で独創的であるならば高く評価する。

でも、真似事であっても研究なので答えがわからないのが普通。場合によっては問題すらはっきりしていない。指導教員すら答えがわからないものについて、学生がどれくらいの時間をかければその答えを得ることができるかなんてあらかじめ分かるはずない。だから、180時間でできる卒業研究のテーマなんて学生に与えられるわけない。しかも、個人個人は得意とする事柄や訓練度、もっている知識の量が違うのだから、どれくらい努力していれば評価に値するかは、個人個人によって違う。

まともに卒業研究をやってもらおうと思い、まともに指導したら、どうしても学生にとってはしんどい状況になると思う。このしんどい状態をどう受け止めるかによって、学生から見れば教員の振る舞いはハラスメントに思えることが十分あり得るだろう。卒業研究・修士研究時の悪循環を防ごうにあるような悪循環に陥っている学生からしてみたら、研究室はアカデミック・ハラスメントが横行しているようにしか見えないだろうし。

一方で、どうやったら卒研を失敗できるか:他人の話を聞くのをやめるに書いたような振る舞いをしている学生がいたら、「君にはもう指導はしない。研究室変わるか、退学するかしてくれ」といわざるを得ない。でも、京都第一法律事務所:教授のアカデミック・ハラスメントが発覚したの記述によれば

どのような行為がアカハラに該当するのでしょうか。いくつか例をあげると、教授など上位の教員が下位の教員や学生に対して、(1)研究テーマを与えない、(2)自主的研究を認めない、(3)研究の妨害をする、(4)研究成果を奪う、(5)学会や論文などで研究成果を発表することを禁じたり妨害したりする、(6)教育・研究に無関係の雑務を強要する、(7)卒業や進学、昇任などを妨害する、(8)指導を拒否する、(9)侮辱的な言動を行う

とある。なので、上記のような学生に対する指導を拒否したり、退学を勧めたりしたら、アカデミック・ハラスメントとして訴えられる可能性は大いにある。

私の理解では師匠と弟子の関係をとらない教育というのはあり得ず、その形態をとらない場合は実際のところ自習にしかなりえないと思う(講師は単に教科書がしゃべっているというだけ)。師匠と弟子の関係をとるならば、必ず封建的になり、立場に強弱ができるので、閉鎖的になるのは当たり前だと思う。

もし、卒業研究が期間無制限であるならば、自習式でも大丈夫(試行錯誤しつついつかは卒業研究が終わる)だと思うけれども、卒業研究を実質半年で終わらせ研究を味見させるためにはどうしても、師匠と弟子の関係をとり、促成栽培しなければならないと思う(そうでないと期間内に終わらない)。

なので、現在の卒業研究を行い大学の勉強の終わりとするという制度を取り続ける限り、アカデミック・ハラスメントに対する対応は、発生を0にすることを目的とするのではなく、発生した場合に迅速に調査・対応を行うという方向に進むしかないのではないかと思う。これは、教員の横暴を許せという意味ではなく、教員と学生の信頼関係が崩れたら卒業研究指導は、それをまともに行っていたとしても、アカデミック・ハラスメントが発生していると学生が思う可能性がある行為であると私が考えているから。

私はアカデミック・ハラスメントで訴えられたくないし、私の研究室の教授もアカデミック・ハラスメントで訴えられて欲しくない。一方で、学生にはせっかくの縁で出会えたのだから、それなりの経験をさせて社会に巣立っていって欲しいと思っているので、出来る限り気をつけて振舞うつもり。

でも、叱られるのを待つな!そういう様子見ると無視したくなるわ!で書いたような状態は、ハラスメントととられてもしょうがないんだよなぁ。でも、ビジネスライクにやったら、留年連発確実だし。ザルにしてしまったら、大学の評判は今より下落するし。悩ましい。答えはでないけど、最適解を探しつづけるしかない。

やっぱり、教員としてもアカデミック・ハラスメントに対する調査・調停機関が欲しいや。自分の身の潔白を晴らすために。

追記(2008/12/14)

apjさんがエントリーを書いてくださりました。