鶏が先か卵が先か:女性研究者採用について

女性研究者採用したら6百万円 文科省、増員狙い補助へ -- 2008年10月5日0時52分
大学などの研究機関が女性研究者の採用を増やせば、その分の人件費を補助します――。主要国で最低の女性研究者の割合をなんとか増やそうと、文部科学省は来年度からこんな優遇策を始める方針を決めた。研究の多様性を高める狙いもあるという。
日本の女性研究者の割合は、男女共同参画学協会連絡会によると12.4%。米国(34%)、フランス(28%)、英国(26%)に遠く及ばず、韓国(13%)よりも低い。
このため、女性のための支援スタッフの配置や託児所の整備といった「環境づくり」中心のこれまでの施策では不十分と判断し、雇用に国費を直接つぎこむことにした。
計画では、女性の割合が特に低い理・工・農学系を対象に、人件費の一部と初期の研究費として、女性研究者の新規採用1人あたり年600万円を3年間補助する。
ただし、女性が働きやすい環境を整え、増員を確実に定着させる採用計画をつくった研究機関に限定する。当面は10機関ほどを選び、100人程度の増員をめざす。
女性研究者を増やすため、第3期科学技術基本計画(06〜10年度)は採用の25%を女性にする目標を掲げた。しかし、文科省によると、06年度に大学が採用した研究者で女性が占める割合は農学系16.3%、理学系12.7%、工学系5.9%にとどまった。(安田朋起)

基本的に良い話だと思う。女性研究者が少ない理由は、理学、工学、農学系の女子学生がそもそも少ないから。どうして、この分野の女子学生が少ないかといえば、第一に、本人の周りの人間が「理学、工学、農学系に進んでもその子にとって良いことがあると思わないから」、第二に本人もそう思うから。
どうして、本人や本人の周りの人がそう思うかといえば、その分野で活躍している女性を知らないため(本当はいるかもしれないが見えていない)。

この悪循環をなくすための一つの方法は、その分野で活躍している女性を増やし認識を変えること。この観点でいえば、女性研究者のポストを用意し、女性研究者を増やすのは悪くない手だと思う。これは、短期的には男性のアカデミックポスト希望者にとって逆差別として働くが、必要悪だと思う。

じゃあ、なぜ、女性研究者を増やさなければならないかといえば以下の2点が理由になると思う。

  1. 研究者予備軍の母集団を2倍にする
  2. 新たな視点・考えの導入

生物学的に男性と女性で研究者に向いているか向いていないかというのはいろいろと論争があるだろうけれども、仮にあったとしても「**人は研究者に向いている」程度の差だと思う。この程度の差は、突出した個人や分野の適合性によって十分にひっくり返せるので無視してよいと思う(日本人は発想力がないと言われるが個々でみればそれが適切とはいえない分野が現実に存在している)。

性差による研究者の適正がほぼ無視できる程度であるならば、研究者向きの人材を一方の性のみから選抜するよりも両性から選抜したほうが質がよくなる(これはスポーツの分野で確かめられている事実。競技人口が多いスポーツほど、トップレベルの質の平均値は上がる)。

また、研究というのは世界になかったものをあるようにすることが本質であるため、もっとも重要なのは「本来あるべきものがまだ存在しない」という事実を認識し、それが「本来あるべきもの」であるということを他人にも納得させることである。

多くの人が見ているある現象から「本来あるべきものがまだ存在してない」という事実を引き出すための最良で唯一の方法は、多様な背景(人種、性別、生育環境、学習環境)、考え方を持つ人間を集めてその現象をみてもらうことだ。同じ背景で同じ考え方を持つ人間をたくさん集めても、ほとんどの場合同じ見解しか得ることができない。しかし、多様な背景や考え方を持つ人間ならば、同じ現象を見ても、別々の見解をえる可能性がある。これが、研究やイノベーションにおいて多様性が重要である理由だ。

現在の日本の研究者の多くが男性であるならば、女性研究者が増えることで新たな視点や考え、問題意識が導入される可能性が高い。よって、大局的にみれば日本の研究能力の底上げが期待できる。

ただし、この女性研究者を増やすという方針で気をつけなければならないのは、(ジェンダー上の)男性として女性研究者を雇用しても何の意味もないという点にある。男としての女性研究者が増えても、一般の女子学生の良いロールモデルになりえない。なぜならば、それは単に女性を捨てなければ研究者になれないという事実を示すだけで、女性を捨てたくない女子学生にとってはネガティブなメッセージを発するだけになってしまう。

また、多様性を増すという観点からすれば、現在女性研究者が多くを占めている分野においては、逆に男性研究者を増やす必要性がある。なので、もともと女性研究者が多くいる分野においては、この制度を使わせないことが重要だと思う(むしろ、男性研究者の雇用促進を図るべき)。多分、文部科学省の統計資料のどこかに分野別の研究者割合がわかる資料があると思うけど、調べるの面倒なので割愛。イメージ的には従来のジェンダー上の女性の役割や職業の分野、看護、家政、保育系の研究者は女性研究者が多いのではないかと思う。

女性の社会進出に関する現状は、まだまだ男女平等とはいえないと思う。

追記:朝日新聞の記事への反応

私は良い案だと思ったのだけど、賛否両論なのね。はてな界隈は明らかにネガティブな意見が多いみたい。Googleで、朝日新聞の記事に反応しているエントリーを探してみた。

こういうマイノリティ優遇策のことをアフォーマティブアクションというらしい。アフォーマティブアクションはどういう条件の下だとうまく働くのかについての研究成果がないかな?こういうのってどの分野の話になるんだろう。