もし、私が学術文献を連接点とした学術情報のネットワークをつくり始めるなら?

発声練習:学術文献を連接点とした学術情報のネットワークのエントリーで書いた学術文献を連接点とした学術情報のネットワーク。


ある学術文献があったときにその文献情報をオープンアクセスとし(学術文献自体の配布形式は問わない)、そのオープンアクセスな文献情報を起点として、Web上の記事、コメント、ブックマーク、その文献を入手可能な販売店、サイト、図書館などにリンクを貼る。これによって、その文献情報を連接点として、その文献に関する関連情報を手に入れることができる。

卒論指導で疲れた心と頭をリフレッシュする意味を込めて、もし、私が私が学術文献を連接点とした学術情報のネットワークをつくり始めるならどういうコンセプトで何を使ってつくるかをちょっと書いてみたいと思う。

坂東慶太のブログ:Re: 論文サイトに対する皆の意見を聞いてでもまとめられているけれども、それとは独立にアイデアを深めていくのも、オープンな研究みたいで面白いかなぁということで。このアイデアをオープンアイデアとさせていただくので、来年度の卒業研究や修士研究のテーマを探している情報系、図書館情報系の学生のみなさまはぜひ作って、私がサービスを使えるようにしてください。

心がけること

まず、重要な認識はこれを研究テーマとして展開したいのか?すなわち、これを使って論文を書ければよいのか?それとも、本当に使ってもらえるサービスを作って広めたいのかという点をはっきりさせること。本当に使ってもらいたいのであれば、自分の立場を考える必要がある。自分の立場とは何か?強制的に自分のサービスを使わせることができないということ。

Life is beautiful: Web2.0を活用する10の方法、その1より)
1.Encourage Social Contributions With Individual Benefit

 筆者は、「みんなが寄与することによってよりサービスの価値が上がって行く形のサービスを作るときには、その人個人が寄与することによって何か(たとえ他の人が寄与しなくても)すぐに得られるメリットを与えてあげなければいけない。」と言っており、ソシアル・ブックマークの del.icio.us を例に上げている。

 この点は私もつくづく感じていることだが、ソシアル・ネットワーク的なサービスを立ち上げる時に陥りやすいワナは、「沢山の人が参加してくれれば価値がものすごく価値が出るが、人数が少なかったり、参加する人たちの寄与が少ない時にはほとんど価値がない」サービスを作ってしまうことである。そんなサービスを一生懸命作ってしまったのだが誰も使ってくれず、「なんで皆使ってくれないのだろう。皆が使ってくれれば良さが分かるのに。やっぱりお金をかけて宣伝できる Yahoo にはかなわないな」などと嘆いているウェブ・サービスの運営者は世界中に沢山いることは容易に想像できる。

 そんな意味で、ソシアルネットワーク的なサービスでありながらも、サービス立ち上げ時のソシアルネットワークの効果が出てくる前から、すぐに使っている人にメリットを与えてくれる設計にしておくことは、ものすごく大切だいうことである。

これこそもっとも心に銘記すべき事項。大学の基盤リポジトリの開発者と個人レベルのリポジトリの開発者には違ったスタンスとアプローチがあって当然。

個人が一人っきりで使っても便利であるということを基本機能とし、人が増えるにしたがってその便利さがより増していくというようにしなければならない。

基本アイデア:既存の出版社、論文提供者に喧嘩を売らない

今現在の状況からすれば、大手出版社や学会が有料で論文を提供していることにはそれなりの理由がある。さらに、そのような大手出版社や学会で論文や本を公表することが多くの研究者の業績と関連している限りは、プレプリント(論文の最終版の前の原稿)やポストプリント(論文の最終版の後)をWebで自由にアクセスできるようにすることは著作権譲渡契約に違反する恐れがあるため、研究者が乗り気になる可能性は薄い。(学術雑誌に論文を投稿する場合には、普通、自分の論文の著作財産権を出版社に譲渡する契約を結ぶ)

しかも、昨今の卒論代行業者の存在や、学生がレポートを丸ごとコピーするという現実から考えれば、オープンアクセスサイトをシンプルに運営すれば、あっというまにコピー用レポート保管庫になるのは目に見えている。

卒論やレポートのコピーが適切な行為かどうかは別として、大学の先生方はほぼ良い気持ちを持たない。そうなると、せっかくサービスを作っても学生に勧めてくれないのでちょっと不利だと思う。

もう一点。誰でも論文を投稿できるオープンアクセスサイトだと論文やファイルの違法アップロードにも対応しなければならない。

以上から、既存の出版社が学会、機関リポジトリ共存できる形でサービスを展開していくことを考える。

基本アイデア:誰を対象としたサービスにするべきか?

前回の私の検討結果から考えるに、学生と技術者を主たる対象にサービスを展開するべき。

発声練習:学術文献を連接点とした学術情報のネットワークより)
修士・学部生として欲しい

  • 論文情報を簡単に手に入れられる(参考文献リストの作成を簡単にできる)
  • その論文がどこで手に入れられるかすぐにわかる
  • その論文の概要が読める
  • 参考文献、被参考文献間で自動的にリンクが張られている
  • グループ共通ビューとして勉強記録がつけられる
  • 同じグループの人の勉強記録も参照できる
  • その論文を既に読み終わった人がどう判断しているのかわかる(./J的のモデレーション項目で充分だと思う)
  • 一言コメントがつけられる(コメント)
  • 自分の勉強記録、コメント、評価をグループに寄贈できる

ソフトウェア開発者として欲しい

  • 論文情報を簡単に手に入れられる(参考文献リストの作成を簡単にできる)
  • その論文がどこで手に入れられるかすぐにわかる
  • その論文の概要が読める
  • 参考文献、被参考文献間で自動的にリンクが張られている
  • その論文を読むための前提知識を知ることができる。編集もできる
  • 他の人の論文に対する評価、コメントを知ることができる

両者とも、論文検索において不利な立場におかれているという特徴がある。また、研究者と異なり、論文検索データベースWeb of ScienceやScience Directなどを使える環境にない(大学生は大学図書館経由で使えるかもしれないけど)。また、研究者に比べて母数が多い。

何をWebサービスとして開発するか?

mixiOpenPNEは、人間をノードとしてネットワークを結んでいくので、それをマネッコして論文情報をノードとしてネットワークを結んでいく形にしたらどうだろう?

このネットワークのノードは、論文情報。論文情報ノード同士がリンクを張る条件は以下のとおり

  • 著作者に同一人物が含まれている
  • 論文の公表媒体が同じである
  • 参照、被参照の関係がある
  • 論文同士に関連性がある

論文情報ノードが持つ情報は以下のとおり

  • 論文情報(タイトル、著者情報、発行媒体情報など)
  • 論文の概要(論文の概要が読める場所へのリンク)
  • 論文の配布場所へのリンク
  • BibTeXとEndNote形式での論文情報

そして、このネットワークから情報を自由に取得できるAPIを用意する。この論文情報ネットワークのAPIを利用したソーシャルブックマークサービスSNSサービスは別につくれるようにする。

論文情報ネットワークのAPIを用いて、研究室や職場単位で使える論文学習記録&論文に対するコメント&ブックマーク機能を持ったサービスを用意する。また、ほぼ同等の機能を持つ、だれでも使える論文学習記録&論文に対するコメント&ブックマーク機能を持ったサービスを用意する。

論文情報ネットワークをつくるための基礎データをどこから手に入れるか?

論文情報を公開しているサイトはたくさんある。私は情報系なので以下のサイトが思いつく。

ただし、上のサイトは英語なので技術者や学生にとっては敷居が高いかもしれない。開発の種や研究成果の応用をさがすのであれば、まずは日本語の論文情報から使ったほうが良いと思う。そこで、日本語の論文情報ネットワークをつくることを目指すのがよいと考える。たとえば、人工知能学会は論文情報も論文本体も無料で入手できる。

情報系で大きな学会である電子情報通信学会と情報処理学会は論文情報をBibTeXやEndNoteの形で情報を提供していないので、これについて論文情報ネットワークをつくれたならば、利用価値はたかい。特に情報処理学会の学会誌は現在の計算機科学や情報工学の研究のトレンドを特集として組むことが多いので、これをブックマークしたり、コメントつけたりできるようにできたら利用価値は高そう。また、電気情報通信学会は、分野別に電子図書館が分かれているため、統一的に論文情報を探せるようにしたら利用価値は高そう。

はじめて見つけたけど、情報処理学会論文誌のプログラム・プロムナードとHaskellプログラミングの特集は、今、Haskellがはやっていることから考えるとはてなの人気リンクに入っていておかしくない。と思ったら入っていたhttp://b.hatena.ne.jp/entry/http://www.ipsj.or.jp/07editj/promenade/index.html

おわりに

典型的な竜頭蛇尾だけれども、私がつくるとしたときに基本アイデアはこういう感じ。