大学院定員3割ルール

大学院3割ルールがもし地方国立大でも適用されるようになったら?地方国立大の魅力は、入りやすいという点のほかに

  • 国立だから私立よりも授業料が安い
  • 自宅から通える

という点にあると思う。

では、これまで自宅から通えていた人が大学院定員3割ルールのために他大学の大学院へ進まなくては行かなくなるとしたらどれぐらいの予算が必要になるだろうか?当然、場所によって生活費が違うが大雑把に試算するとして、以下のとおり。

  • 年額:180万円(娯楽費、一時出費除く)
    • 家賃:6万円/月
    • 光熱費・通信費:1万円/月
    • 消耗品・食費:3万円/月
    • 大学学費:30万円/半期

教科書購入や他の支出(交際費、医療費、衣服費など)を考えたら年間200万円ぐらい必要なのではないかと思う(食費と家賃で30万円ぐらいの誤差があるだろうが)。そのうち、10万円が月々払う必要があるお金。学費と一時出費は払うときまでに稼げばよいのだから、アルバイトの時給を850円(コンビニの時給はこのくらい?)、1回6時間労働として、月4週と考えると、週5回バイトに入る必要がある。学費と一時出費に関しては夏休み(8,9月)と春休み(2,3月)に40万円ずつ稼ぐ。つまり、8, 9, 2, 3月は月30万ずつ稼ぐ。すると、完全に自分で生活できると思われる。病気をしなければ。ちなみに、大学の授業はだいたい前期と後期あわせて30週(試験期間含む)なので150日は授業がある目算。

学生支援機構第一種奨学金(無利子の教育ローンのこと)は、修士(博士前期課程)に対して88,000円なので、もしこれを貸与されたならば、年額1,056,000円。よって、年額944,000を稼ぐ必要がある。これは月額62,000円になる。アルバイトの時給を850円とすると、1回6時間労働、月4週とすると、週3回バイトに入る必要がある。この場合、夏休みと春休みに追加バイトする必要はない。

実験系の分野の修士は、はっきりいってバイトする暇はない。なので、奨学金なしで年額200万円を自分ひとりで払いきるのは無理。第一種奨学金がもらえるモデルでも肉体的、精神的に厳しいかも。奨学金がもらえるモデルでも月3万円くらいの仕送りをもらい、一日バイト(8時間)に入る形が無難な線ではないかと思う。足りない分は長期休業中の単発バイトで稼ぐ。

博士後期課程の場合、多くの理系大学院では学術論文に数編の論文を掲載させることが学位取得の要件であることから、論文別刷り代(掲載料と思っていただいて良い。)15万〜20万くらい、あるいはその分野で有名な国際会議での発表(会議登録費+旅費で)10万〜30万円くらいが一回論文を掲載させるごとに必要となる。つまり、がんばって研究すればするほど、お金が必要となってしまう。この必要経費(論文を発表しなければ学位が取得できない)を所属している研究室が補助してくれる場合もあるが、研究室を主宰する教員が研究費を獲得できなければ学生が調達する必要がでてくる。うまく、研究支援費があたれば良いが、あたらなければ自費。年間必要予算の200万円に+20〜40万円が必要となる。

学生支援機構の第一種奨学金の博士分は122,000円/月なので、年額1,464,000円。研究発表に必要なお金もいれて、年間240万円必要なのだから、稼ぎ出す必要がある経費は、936,000円。よって、アルバイトの時給を850円とすると、1回6時間労働、月4週とすると、週3回バイトに入る必要がある。この場合、夏休みと春休みに追加バイトする必要はない。

博士の場合は、サボってしまうと時間があるが。(そして、サボってしまいやすい)。まじめにやればやるほど時間がない。そして、まじめにやればやるほど研究成果がでるのでお金も余計にかかってしまうのが悩ましいところ。研究費を自分で取ってこれた(たとえば、学術振興会の特別研究費やその他財団の特別研究費員、研究奨励費)、あるいは所属する研究室で予算が十分に取れているならば気にする必要がないけれども。

話を戻すと、大学院定員3割ルールが地方国立大に適用されると、自宅から通えるという理由で大学を選択した人々にとっては、修士で400万円(内、授業料120万円)、博士で720万円(内、授業料180万円)追加経費になる。追加経費を全部自分で払おうとすると、まともに勉強・研究することは無理に近い。第一種奨学金を貸与されたならば、ある程度勉強と研究を両立できる。ただし、しんどい。

現在は大学院定員3割ルールは旧帝大北海道大学東北大学東京大学名古屋大学大阪大学京都大学九州大学)の大学院定員に対するルールなので、上記の地元志向の学生はそれほど多くないと思われる。でも、これが地方国立まで拡大した場合には、経済的な問題で大学院進学をあきらめるケースが多くなると思われる。

修士課程(博士前期課程)進学はもう特別な話ではないで書いたとおり、大学院修士課程への進学は工学部ではもう普通であるので、これはかなり問題だと思う。博士課程への進学はどうか?なんとなく博士課程へ進学する学生への抑止力になるかもしれないが、本当に博士課程に進みたい学生に対しても同様に抑止力になってしまう。

この問題を解決する方法は、大学院生(修士、博士)にお金を払うしか方法はない。奨学金(実際は学生自身が借りることのできる教育ローンだけど)の定員拡充、また、大学院進学学生の4割がもらえるくらい大規模な個人に紐付けされた(その学生が所属した大学院、あるいは研究室に研究費、学費が払われる)研究奨励費制度の制定が必要になるのではないか。でも、そのお金をどこから持ってくるかと言えば、税金から持ってくるしかないわけで、世の中で修士卒や博士卒の必要性が高まらない限り無理なお話かな。

で、よく考えると上記の個人に紐付けされた研究奨励費っていうのは教育バウチャー制度そのものなのね。


以下、参考。大学生の一人ぐらしの調査結果が欲しかったけど見つからなかった。

博士課程在学者への経済的支援の拡充

優れた資質や能力を有する人材が、博士課程(後期)進学に伴う経済的負担を過度に懸念することなく進学できるようにすることは、優れた研究者を確保する観点から必要であるとともに、博士号取得者の多様なキャリアパスの拡大に資する。

このため、大学院生の約4割が生活費相当分の支援を受けているとされる米国を参考とし、博士課程(後期)在学者を対象とした経済的支援を拡充する。具体的には、優秀な人材を選抜するという競争性を十分確保しつつ、フェローシップの拡充や競争的資金におけるリサーチアシスタント等としての支給の拡大等により、博士課程(後期)在学者の2割程度が生活費相当額程度を受給できることを目指す。また、人材育成の観点からも重要な役割を果たすことが期待される奨学金貸与事業については、事業の健全性を確保しつつ、各大学からの適切な推薦に基づき、特に優れた業績をあげた者に対して返還免除を行う制度の効果的な運用を推進する。さらに、個々の学生が進路選択に当たり、博士課程(後期)受験前など可能な限り早い時期に、経済的支援が受けられるか否かを判断しうるよう適切な措置を講じる。