アメリカ人である著者が、日本の研究所に客員研究員として滞在し、多くの研究者にインタビューを重ねて、日本の科学者の実態を観察している本。ただし、分野は生命科学についてです。
私は今年の3月に学位をとったばかりだから、はっきりいって科学者を名乗れない(資格はあるけど)。でも、この本ででてくる論点は「日本の科学者が報われない」原因であるのだろうなと思います。
- アカデミックポストの問題。
- 大学と企業の深い溝。
- 研究費問題。
- 行政事務職のジェネラリスト養成方針。
- 男性と女性の社会的役割。
- アカデミックポストの流動性のなさ。
- 日本における学位の価値。
いろいろな問題が提示されている。ひとつひとつは科学者の地位を向上させるためにも、解決しなければならないのだけれども、
抵抗がある点もあります。それは、自分が「問題」とされている側に属していること。私はアカデミックポストの問題と男性と女性の問題だけに該当するけれども、多くの点で自分が「改善されるべき」側にいるとしたら、やはり抵抗したくなります。
少し前に、激しくコメント欄で反対意見が上がった柳田充弘の休憩時間のエントリ
- 「過剰」なポスドクについて On 'excess' postdocs
- 昨日のについてのコメント Comments on excess postdocs
- 野に放つ Release to the field
- ご参考までに For your information
- 大学院生はいかにして生きぬくか How graduate students can survive
これらのエントリでも提示されているように、流動性を高めるためには、学士取得後の人々が不安定さをものともせずに、研究所を渡り歩くしかないのがたぶん実情です。でも、日本の社会全体としては流動性が低いのに、科学者の世界だけが流動性が高い。するとどうなるか?当然、受け皿はなく落ちたら終わりの超ハイリスクな世界になります。
当然、そのハイリスクをとれと言われているポストドクターは反発します。「なぜ、私たちだけがそんなリスクを負わなければならないのか?」まったくそう思います。でも、「まず、既存のアカデミックポストをすべて任期制にしろ!」と言われると、アカデミックポストを取得できた私は同意できません。だって、就職するのに苦労したんですよ?手放したくありません。
この場合、やり方はたぶん、たった一つです。後漢の光武帝方式しかありません。後漢の光武帝は宿敵の王朗を破ったとき、それに使えてた臣下達を安心させるために、書類を全部焼き捨てました。つまり、過去のことを一旦リセットして身分保障をしたのです。最近、何が問題なのか?については充分に把握されるようになりました。次は、どう解決するのか?に移るべきです。このとき、光武帝の故事が参考になると思います。とりあえず、過去のことはちゃらにして、今を改革するのです。
とりとめがなくなってしまいましたが、この本は良い本です。恐ろしいのはこの本の出版が2003年であり、今が2005年であるのに問題がほとんど残っているという現実です。短期で解決できる話じゃありません。