エゴスクープに反応するのはやめよう

数日後に確実に分かることをスクープにして早く出すというのは「エゴスクープ」と呼ぶ。

エゴスクープはローゼン氏の造語だ。少し長くなるが、同氏はこう定義している。

エゴスクープの特徴は放っておいてもいずれ明らかになる点。何もしなくても発表されるニュースであるにもかかわらず、それを誰よりも早く報じようとしてしのぎを削っている記者がいる。読者の立場からすれば、誰が初報を放ったのかはどうでもいい話であり、こんなスクープの価値はゼロである。

でも、この種のスクープを放った記者に対して「こんなスクープは実質的に無意味だ」と言ったら猛反発されるだろう。(中略)エゴスクープを放って喜んでいる記者は、報道界という狭い内輪の世界で競争しているにすぎない。公益とはまったく関係ない世界に身を置き、自己満足しているだけだ。 

「吉田調書」で特報を放った朝日はエゴスクープと決別できるか?より)

東京都は毎日COVID-19の感染確定者の数を公表している。感染確定者数はここ数日間の傾向を知るためのデータであるため数時間単位で情報を更新する切迫度はなく、日単位で十分である。で、連日、テレビや新聞が東京都の公表をまたずに、「関係者」からのリークにすがってエゴスクープを連発している。このご時世、ちょっとでも早く観戦者数を報じれば、ニュースとして成立するのは確かだろうけど、明らかに手抜きをしている。こんなしょうもないニュースを流さず、もっと、我々にとって役立つニュースを流すために取材しろと私たちはこういうエゴスクープに無反応になるべきだと思う。

以下は7月5日の例。共同通信から記事買っているので、もう脊髄反射で流しているじゃないかと疑う感じ。

NHKニュースWeb:2020年7月5日 14時59分
www3.nhk.or.jp

東京都の関係者によりますと、5日、都内で新たに111人が新型コロナウイルスに感染していることが確認されたということです。都内で1日の感染の確認が100人以上となるのは4日連続です。これで、都内で感染が確認された人は合わせて6765人になりました。

都は不要不急の他県への移動は控えるとともに、感染の確認が相次いでいる夜の繁華街では、適切な感染防止策を講じている店を選ぶなど、十分に注意するよう強く呼びかけています。

共同通信:7/5 15:19
this.kiji.is

東京都で5日、新型コロナウイルス感染者が新たに111人報告されたことが関係者への取材で分かった。4日連続で100人を上回った。

毎日新聞:2020年7月5日 15時21分
mainichi.jp

東京都内で5日、新型コロナウイルスの感染者が新たに111人確認されたことが、都関係者への取材で判明した。都内で1日あたりの感染者数が100人を超えるのは4日連続。

読売新聞:2020/07/05 15:14
www.yomiuri.co.jp

東京都内で5日、新型コロナウイルスの感染者が新たに111人確認されたことがわかった。4日(131人)よりは減少したものの、1日当たりの感染者が100人を超えるのは4日連続となった。

都によると、4日連続で感染者が100人を超えるのは、政府の緊急事態宣言が発令されていた4月22~25日以来となる。

日本経済新聞:2020/7/5 15:08
www.nikkei.com

東京都で5日、新型コロナウイルスの感染者が新たに111人確認されたことが関係者への取材で分かった。新規感染者が100人を上回ったのは4日連続。都内の感染者は累計で6765人となった。

都内では、新宿や池袋エリアを中心としてホストクラブなど「夜の繁華街」関連の感染者が増加。若い世代の感染も多く、足元で全体の7~8割で推移している。4日には新規感染者が緊急事態宣言解除後の最多となる131人に上った。

近隣県へも感染の広がりもみられ、小池百百合子知事は4日に「不要不急の他県への移動は遠慮してほしい」と呼びかけた。

参考:Jay Rosenさんが提唱したスクープの4つの種類

  • Type One: The enterprise scoop. Where the news would not have come out without the enterprising work of the reporter who dug it out.
  • Type Two: The ego scoop. The extreme opposite of an enterprise scoop is the ego scoop. This is where the news would have come out anyway–typically because it was announced or would have been announced–but some reporter managed to get ahead of the field and break it before anyone else. From the user’s point of view, there is zero significance to who got it first. This kind of scoop is essentially meaningless, but try telling that to the reporter who feels he or she has one.
  • Type Three: The traders scoop. This is the most ambiguous of my categories. It recognizes that there can be situations in which, for the general public, “who got it first?” is next-to meaningless, but for a special category of user–the traders, investors, arbitrageurs–minutes and even seconds can count.
  • Type Four: The thought scoop. The most under-recognized type of scoop is the intellectual scoop: “stories with new insights” that coin terms, define trends, or apprehend–name and frame–something that’s happening out there… before anyone else recognizes it.

参考:特オチ

ja.wikipedia.org

特オチ(とくオチ)とは、日本の報道機関において、他社が一斉に扱っている大きなニュースを自社だけがつかむことができず報道できずにいる(報道が遅れてしまう)状態の俗称[1]。スクープの対概念。