質問は手を動かして考える

書いていただいた内容からすると自分への評価や目標としていることが非常に高い&効率・優雅さを求める傾向があるように見えるので、手を動かしてアウトプットだすことが重要なのではないかと。

next49さん

毎回研究活動でつらくなる度,next49さんの記事を参考に奮起させていただいております.私は現在国立大学工学部の大学院に所属し,修士一年として研究活動に励んでいる者です.上述された相談とその解答を拝見させていただきましたが解決の糸口につながるような解答を相談者の皆様ほとんどがいただけていたようで,私も先生の助力を頂きたいと思い相談した次第です.

以下,相談内容です.

私は現在修士一年として研究室で研究活動に励んでいるのですが,研究が思うように進まず毎日虚しい思いで生活しております.私の他にも修士一年の学生は数人いるのですが,みんな自分の研究の課題がはっきり見えていて努力の結果がちゃんと形として現れていてそれが研究室内で認められているようです.

一方,僕の研究は昨年から始まった新規の研究でこれまで研究室内で行われていなかったことに取り組むようなものになっています.現在の進捗は予定よりも大幅に遅れており,同期の研究と比較しても自分の場合悩んでいる時間が大半でほとんど結果が出せておらず劣等感と自分の情けなさに失望するばかりです.
そんな日々が昨年から,ずっと続いており最近では大学院の再受験による環境の鞍替えも考えるようになりました.(自分の学歴への劣等感もまだ捨てきれていないので.)

本当はもっと情熱的に愚直に研究に励みたかったのですが,わからないことが多すぎて,わからないことが何なのか分からず,その助言を先生に求めるわけにもいかず(求め方もわからず),研究の進捗がストップしている状態です.

最近ではB4の学生もゼミで研究の進捗を発表し始めていますが,先輩方の研究を引き継いだ彼らの進捗と自分の進捗を比較しても圧倒的に前者のほうが優れているように見えて,修士として恥ずかしく自分の無能さに失望してしまっています.
名も知れないような無名国立大に通ってはいますが,学部の席次はトップクラスでしたしTOEICなども800近くのスコアを保持しているので勉強面では多少自信がありました.しかし研究では全く成果を上げることができず,積み上げてきた自信を徐々に消失してしまっています.

現在のこの憂鬱とした気持ちを吹き飛ばすには「研究が進むこと」が必要だと思うのですが,そのためには何が最も効果的でしょうか?
who whatさんのコメント

おことわり

who whatさん、ならびに、名もなき猫さんの分野や実際の状況がわからないので、どういう助言をしたら役に立てるかわかりません。なので、私の半径5mで見たことのある「論文書きたいのですがどうすればよいですか」と質問してきた学生を念頭において、いくつか書いてみたいと思います。すべての話が自分に当てはまると考えず、役に立ちそうなことをつまみ食いで利用してください。

そもそも研究と勉強の違いがわかっていない

「論文書きたいのですがどうすればよいですか」と尋ねてくる学生への返事は基本的に「そもそも論文に何を書きたいの?」でした。論文は報告書の一種であり、人類全体やある分野の専門家コミュニティーにとって、新しいことで、かつ、独創的で、かつ、興味深いことを報告するために書く物です。ですから、ある分野の専門家コミュニティーにとって、新しいことで、かつ、独創的で、かつ、興味深いことが手元になければ論文を書くことはできません。

ある分野の専門家コミュニティーにとって、新しいことで、かつ、独創的で、かつ、興味深いことを見つけ出す活動が研究です。誰かが明らかにしたある分野の専門家コミュニティーにとって、新しいことで、かつ、独創的で、かつ、興味深いことを学ぶのが勉強です。勉強は研究の基盤となりますが、勉強をいくらしても研究にはなりません。何百という文献を読み込み、理解したとしても、それをベースにある分野の専門家コミュニティーにとって、新しいことで、かつ、独創的で、かつ、興味深いことを生み出さないならば、その人は賢者であっても、研究者ではないです。

問題(問い)がないならば研究は始まらない

私は工学系計算機科学の出身&在職中なので、研究の基本スタイルはなにがしかの問題を解決するというスタイルをとります(自然科学であれば何かしらわかっていなかったことをわかるようにするのが目的でしょうし、人文学ならば既存の資料の新しい解釈が目的となることもあるでしょう)。

ある事柄に関して、現状が十分であるならば何も変更する必要はありません。ですから、研究する余地はありません。ある観点において、現状が理想的でないからこそ、現状と理想のギャップを問題と考え、現状を理想へと近づけることを解決法として提案し、実際に実現することになるわけです。

「論文書きたいのですがどうすればよいですか」と尋ねてくる学生のほとんどは、この質問を発している段階で研究を通して解決する問題を把握していませんでした。問題がないならば研究を始めることができません。

誰が、どういう状況において、何について、どう困っているのでしょう?そして、その困っていることを緩和(ちょっとでも良くすること)、あるいは、解決することで、人類全体、あるいは、ある社会において、あるいは、ある分野の専門家コミュニティーにおいて、どれぐらい多くの人がうれしいと思うでしょうか?これをはっきりと答えられるならば、研究を通して解決したい問題というものを把握していると言えます。なお、「誰が=俺が」「どれぐらい多くの人が=俺が」というのでも新規性と独自性を満たせばOKな分野もあります(たとえば数学や自然科学)。

目的がなければ研究の進捗などあり得ない

問題がはっきりと把握できたならば、続いては目的、すなわち、その問題を緩和・解決した状態を明確にしなければいけません。もちろん、完全な解決まで果てしない道のりの問題もあります(たとえば、人工知能の実現とか)。それでも、目的をはっきりさせなければいけません。目的とはサッカーやバスケットボールでいうゴールです。ゴールが決まっていないのにドリブルを駆使して進んでも、何の意味もありません。ゴールがあるからこそ、ドリブルで「進む」という概念が登場してきます。

「研究が進みません」という学生の多くが、そもそも解決すべき問題を把握しておらず、かつ、目的を明確に説明できない状態でした。

料理のとき、あなたは野菜を切っているとします。野菜を切り終わったら料理は終わりでしょうか?もし、作っている料理が生野菜のサラダならば、90%以上料理は終わっています。でも、カレーライスだったら?夏野菜のグラタンだったら?野菜を切り終わるというのは下ごしらえの範疇であり、料理の本番はこれからとなるでしょう。

何かのデータがでている。何か良さげな結果が得られているというのは、研究が進んでいることになりません。目的の達成に対して、そのデータや結果がどういう意味を持つのかが説明できたとき、初めて、研究が進んでいるのか、進んでいないのかを言うことができます。

「研究が進みません」というとき、今、取り組んでいることが目的の達成においてどういう位置づけの作業か説明できるでしょうか?もし、説明できないならば、そもそも、研究が進んでいるのか進んでいないのかを言うことはできません。まずは、目的をはっきりと定めるべきです。

なお、目的は問題に応じて変わります。目的を小さく(達成の難易度を低く)したならば、当然、解決できる問題の範囲も小さくなります。問題を大きくすれば、目的も大きくなります(達成の難易度が高くなります)。どのくらいの目的ならば、ある分野の専門家コミュニティーにとって、新しいことで、かつ、独創的で、かつ、興味深いことになるのかというのは、実は学生にとって判断するのが難しい部分です。指導教員に相談するのがもっともよいことですが、何らかの理由により、指導教員が相談にのってくれないならば、投稿予定の雑誌や国際会議の論文を十数編読み、相場観を理解する必要があります。

テーマを自分で決めるというのは簡単ではない

who whatさんと名もなき猫さんはお二人とも先生もやっていないテーマを研究テーマに選ばれています。他の継続テーマや先生が把握しているテーマの下で研究を行っている学生に比べて、研究の進みが遅いのは至極当然です。というのは、テーマを決めること自体が簡単ではないからです。私の認識では、研究がうまくいくかどうかの6割ぐらいはテーマ設定に依ります。スポーツで例えるならば、お二人は競技する種目自体を自分たちで検討するところからスタート、他の学生は種目が決まり、大会の会場も決まり、試合日程も決まったうえで、試合に向けて練習を開始するところからスタートぐらいの差です。他の学生と同じような速度で研究が進むと考えるのがそもそも間違いです。

他の学生との比較ではなく、目的に対してどれだけ進んだのか(問題を解決する方向に向けて、自分にとって新しい知見が得られているかどうか)で考えましょう。

アウトプットが無いならば研究を行っていると言ってはいけない

ブーメランのように自分に刺さってつらいのですが、「研究が進みません」という学生の多くは頭の中だけで何かを進めており、それを第三者が確認できる何かにしていませんでした。「〜をした」と言うときには、必ず「〜をした」結果を第三者が確認できる状態にしていなければいけません。

ここでいうアウトプットとは論文のようなまとまったものだけでなく、箇条書き、数式、文、図、表など多くのものを含みます。指導教員や先輩への相談事や質問もアウトプットの一つです。

効率よく研究をしたいと思っている学生は、手戻りを嫌ってアウトプットをしないため(わかってから、完成してからアウトプットしようとする)、アウトプットの作成過程を通して理解が深めることができず、結局、効率の悪い進め方になっていることがあります。「理解するためのアウトプット」があるということを認識するのが重要です。というか、良い研究者はフットワーク軽く、アウトプットする傾向があると思います。

夏休みに入ってから行った自分の研究活動を振り返り、アウトプットを数えあげてください。図は何枚描きましたか?表はいくつ作りましたか?メモは何篇ありますか?数式はいくつ立ててみましたか?質問は記録していますか?困ったことは言語化していますか?もし、アウトプットができていないならばとりあえず現時点までの話をアウトプットしましょう。アウトプットができているならば、整理し、それを持って先輩や指導教員に目的とアウトプットの関係を説明しに行きましょう。

分割し、統治せよ

「何をしてよいのかわからない」という学生の多くは、研究の目的を部分問題に分割し、その部分問題をひとつひとつ解決していくということができていませんでした。複雑な問題を複雑なまま処理しようとしていたのです。複雑な問題を複雑なまま処理してはいけません。

この元の問題を部分問題に分けて対応するというのは、ソフトウェア開発では「分割統治」と言われる手法・考え方として知られています。

部分問題に分けるのが難しい場合でも「まず、最初の第一歩は何か?」ということから考えるというのも一つの手です。

対象となる問題の制限を厳しくして、小さな問題として解いてみるというのも良い手です。コメント欄でRamさんが書いている以下の部分はまさにこの例です。

。会社の規模にもよると思いますが、入社後3年程度までの新入社員ならいざ知らず、社内で誰にでもできるような仕事をいつまでもやってるばかりではお話にならないので、与えられた仕事を実現するために、ネット等も使用して簡単に概要をつかみ、必要な本や論文の目星をつけ、自分で調べて勉強をし、許可を取って試作などをしていく、というような流れが私の日常となっています。(もちろん先輩にこまめな「報連相」をしてはいますが、先輩もやった事の無い事案が多いので特に大したこと言ってきません。)

また、Ramさんの素晴らしい点は先輩にこまめな「報連相」をしているという点です。仮に先輩が何も言ってこない(助言が得られない)としても、他人に自分のやっていることを理解出来るように説明するという行為は、自分が何をやっているのかを深く理解するために役に立ちます。

手段を目的から決めよ、また、 サンクコストを許容せよ

研究はすべて問題(問い)からスタートするのですが、うまくテーマを決められない(こちらの提示したテーマを受け入れない)学生は手段/技術を先に決めて、その手段/技術に合う研究テーマを探そうとします。その上、その手段/技術というのは吟味して決められたのではなく、自分がこれまで勉強してきて比較的良く知っているからという理由程度で選んでいることが多かったです。

研究テーマを手段/技術から決めていないでしょうか?取り組もうとしている問題を解決するための道具として、今の手段/技術は適切でしょうか?もし、適切でないならば、これまでの学習に費やした金銭的・時間的コストはとても惜しいですが、一度、捨てて適切な手段/技術を選び直すのが良いと思います。

おわりに

私は修士研究は指導教員が提示したテーマの下で研究を完遂できる(目的をある程度達成できる)ことができれば十分だと考えています。博士研究からは指導教員と相談の上、研究方向を決め、その方向の下でテーマを自分で考え、研究を遂行できることが求められると考えています。

who whatさんと名もなき猫さんのコメントを拝見するかぎり、お二人とも修士研究で解決すべき問題を定義できておらず、目的もはっきりと定めることができていないのではないかと思います(お二人ともサーベイの段階と読めました)。まずは、問題と目的をはっきりさせるのが重要だと思います。

もし、自分では問題を把握できていると思っている場合でも、質問テンプレートの「研究の基礎を固める場合」の質問を自問自答し、質問への解答を文の形で書きだしてみてください。そして、その問題を部分問題に分割してみてください。あるいは、問題の条件を緩和あるいは厳しくし、より易しい問題に変換してみてください。その上で変換した問題に対して「研究の基礎を固める場合」の質問を自問自答し、質問への解答を文の形で書きだしてみてください。そのうえで、研究室の仲間を捕まえて、質問と回答を読んでもらってください。その人が質問と回答を読んで、元々の問題を理解できるならば、問題を把握しているといってよいと思います。

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