一番重要な画像加工の評価アルゴリズムとそのアルゴリズムの妥当性を示してほしい

狙いはとても素晴らしく、新しい学問分野ができそうでとっても良い。でも、論文 or 報告書としてちょっと足りないと思う

画像加工の評価アルゴリズムとそのアルゴリズムの妥当性が示されていない

このScience Postprintを運営しているゼネラルヘルスケア株式会社の収益の核となる部分なのかもしれないけど、これを隠したままでは分析の意味がないと思う。

論文はPDFファイルを取得し、画像をコピーして、解析ソフトにペーストし、コントラスト、もしくはガンマ補正を変動させることにより、画像の変化を評価した。

ソフトウェアのソースコードの公開は不要だけど、ある画像が加工されたものであると評価する基準およびそれを判定する基本アルゴリズムの説明はほしい。そして、その基準とアルゴリズムの有用性を示す実験結果も欲しい。引用されている論文にそれが載っているのかと思ったけど単なる宣言だった。

会社運営の関係で詳細なアルゴリズムが出せないとしても、たとえばその画像解析ツールをWebアプリケーションとして公開し、誰でも任意の画像の加工度をチェックできるようにしておけば「我々はこのツールを使って評価しました」と納得してもらえる(ツールの出来を納得してもらえるかどうかは別)。

私も画像解析の分野の人に比較ソフトウェアを発注したらどうかな?というエントリーを書いたので、ある程度までは画像の加工を自動でチェックできるソフトウェアはできると思っているので、ぜひ、この解析ソフトウェアの妥当性を示してほしい。

評価対象データの網羅性

論文入手の手間とお金(Nature論文は有料)および画像評価の手間の観点から誰もが納得できる範囲を調査することは難しいとしても、評価対象データ範囲の狙いがよくわからない。

  • 2000年〜2006年に発行されたNature誌から、電気泳動の実験画像を含み日本人名が著者に含まれた全302件の論文
  • 2003年1月〜2月に発行されたProceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (PNAS)誌100(1)〜100(3)から、電気泳動の実験画像を含む全72件の論文

Natureの方は「日本人だけ」抜き出しても他との比較ができないので日本人は画像加工をする傾向があるという主張を確かめるには不十分な評価対象データ。PNASの方は比較可能なのだけど、母数が少ない。日本人の名前が入っている論文の総数は14本なので少ない本数で画像加工率が大幅に変わってしまう。Natureの方を調べないで、PNASだけ1年分調べるとかした方が説得力があるデータになったと思う。

また、調査対象が10年前の論文というところもちょっと不思議。

おわりに

現状だとこの報告をもって論文の主張を受け入れるのは無理だと思う。狙いは良いし、興味深いので、とっても惜しいと思う。