「〜の変化は…でX割説明がつく」という言い回し

「株安でアベノミクスは頓挫した」と、1割の可能性にBETする危ない橋を渡る人たち 高橋洋一氏インタビューはてなブックマークコメントに統計学について勉強になるエントリーをいろいろと書いてくださっている what_a_dudeさんが 「相関係数を割合として考えてさらにそれを確率として考えるなんて斬新な発想ですね(棒)どこまでアレなのかほんとにわからない御仁ですこと。」とコメントされている。私は統計学素人(一般教養程度)だけど、確かに相関係数を確率として使ってよいという話は見たことない。

高橋洋一さんご本人も以下のように説明している(以下、「株安でアベノミクスは頓挫した」と、1割の可能性にBETする危ない橋を渡る人たち 高橋洋一氏インタビューより引用)

このグラフから導き出される相関係数は+0.91。相関係数というのは、2つのデータがどれだけ関連性があるのかを示す係数で、−1から+1までの間の数値を取るものです。この相関係数が+0.91ということは、現実の、現在の日本では、マネタリーベースの増加率と予想インフレ率の上昇率のあいだには、かなり強い関連性があるということです。

で、その後、相関係数を割合として考えてさらにそれを確率として考えている。

たしかに予想はうつろいやすいですよ。でも上のグラフを見ればわかる通り、相関係数は0.91です。これは、日本でマネタリーベースを増やせば、およそ9割方は予想インフレ率も6ヶ月後には上昇するということが示されているものです。これは、日本の過去でも、リーマン・ショック後の欧米でも見られた現象ですから、これをどうやったら否定できるのかわたしにはわかりません。
「株安でアベノミクスは頓挫した」と、1割の可能性にBETする危ない橋を渡る人たち 高橋洋一氏インタビューより)

これら1〜5までの動きは、過去40年間のデータから見れば、9割方はだいたい説明できると言えることです。マネタリーベースが増えると、上のような経路を通して約2年〜をかけて徐々にマネーストックが増加し、結果的に徐々にGDPが増え、失業率も下がり、賃金も上昇し、インフレ率も上昇するということも、過去40年間のデータを分析すれば、9割方もっともらしいと言えることです。

ここで重要なことは、上の図で、「株価の上昇がもたらす消費と投資の増加効果」を示す矢印が、緑の“点線”で描かれているということです。この部分が、なぜ“実線”ではなく、“点線”で描かれているのかは、それはじつは、「マネタリーベースを増やしたからと言って、株価が上がるかどうかは5割方しか説明できないから」です。

「実質金利が下がると株価が上がる」ということも、普通の株価形成理論から言えることですが、この関係のみは、「実質金利と1年後のGDPで5割方くらいは説明できる(=予想できる)ことになっているが、残りの5割は、要因はいろいろとあって、何が株価を決めているのかはわからない」ため、5割方しかしか言えないことというわけです。

ただ、リフレを主張している方々の本を何冊か読んだけれども、「〜の変化は…でX割説明がつく」という言い回しは、良く目にする(主に高橋洋一さんの文章で)。いくつかの変数間で相関係数を調べて、一番相関が高いものが要因(not 原因)であると考え「〜の変化は…で説明がつく」と発言するのは個人的にそんなに変ではないと思う。そこに「程度」を表したいとき相関の度合いを使うのも変ではないと思う。問題は相関係数Xを使って「X割説明がつく」と言うところかな。で、Googleでこの言い回しを使っている人を検索してみたところ、同じくリフレ主張の松尾さんが使っていた。

重相関係数は、0.639(重決定係数は0.409)となりました。切片のp値は0.0016、失業率の係数のp値は小数点以下6桁のオーダーとなりました。

とりあえず、社会科学でしかもクロスセクションで相関6割は十分いい結果じゃないかと思います。この程度で相関が実証されたとする研究はいくらでもありますけど、原田さんは41%は説明がつくが、残り59%は説明がつかないとおっしゃっています。重決定係数を見ておっしゃっていることでしょう。まあやっぱりもう少し上がった方がいいには違いないです。失業率のp値は十分低いので有意であることは間違いないでしょうけど。
給食費未納は失業でかなり説明できるより)

サンプル数3だけど、「〜の変化は…でX割説明がつく」という言い回しはジャーゴンなのではないかというのが予想。このジャーゴンがどのくらい良くないことなのかは私はわからない。

なお、私は高橋洋一さんの主張には賛成。貨幣の量を増やして、そのしばらく後に予想インフレ率が上がるという事実があり。貨幣量の増量と予想インフレ率の上昇が相関係数0.9ならば、機序はわからなくても貨幣量増加させて予想インフレ率の上昇を待つのは良い方法だと思う。私の理解ではこれは証拠に基づく医療と同じ考え方なので、科学ではなく工学・医学の範疇と考えれば別に変なことしていないと思う(追記:コメント欄参照)。

追記: what_a_dudeさんからいただいたコメント

本エントリーについてTwitterでコメントいただいた。

線形回帰の場合決定係数は推定値の分散を標本分散で割った定義もあるのでセーフです(原田氏はセーフ)。しかし寄与率も予測の精度を全く保証しないです。観察研究の単回帰で何か決定的なことを言うことは普通できません
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what_a_dudeの日記:ツッコミどころが多すぎてどこから突っ込んでいいのかわからない記事に細かく突っ込んでいくテスト 以前やりましたが、マネーストックで調整するだけで、マネタリーベース変動の効果はほぼゼロになります。
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このコメントに「なるほど」と言えない程度の統計の知識なので勉強します。コメントありがとうございます。

追記2

付け焼き刃ながら図解雑学 統計解析の第1章および多変量解析の第1章と第2章「重回帰分析」を読んで、what_a_dudeさん、ごんべえさん、ublftboさんがおっしゃっている何についてだったら「〜説明できる」と言ってよいのかについて大雑把にわかった(でも、通常道具として自分が使いこなせる状態ではない)。お三方ともありがとうございます。