「靴のサイズ30cmなんですけど、貸靴ありますか?」

私は、靴のサイズが30cmある。このため、ボーリング、スキー、スケートなどの靴をレンタルする必要があるサービスを受けに行くときは、事前に「靴のサイズ30cmなんですけど、貸靴ありますか?」と確認するようにしている。また、多くの靴屋には30cmの靴は売っていない。靴下についても28cmまでの靴下をみつけて、生地が伸びることを利用してはいているということも良くあった。当時は、親指の先やかかとの骨(踵骨)に穴がよく開いていた。

体重落とせば足のサイズも小さくなるということがあるかもしれないけど、基本的に足のサイズというのは先天的なものでありどうにかすることはできない。足のサイズという私がどうにもできない事柄によって、他の人が享受できているサービスを私だけが受けられないというのは残念な話ではある。でも、ボーリング、スキー、スケートなどの靴をレンタルする必要があるサービスや靴屋が30cmの靴を置いていないのは理解できる。だって、足のサイズが30cm以上の人ってあんまりいないものね。利用されないものや売れないものはコストになる。営利企業であるかぎりそれは仕方ない。

一方で、小学校〜高校のときに学校で指定された上履きに私の足に合うサイズがないときは非常に憤りを感じた。中学校のときはまだ27〜28cmだったので別注文で済んだけど、高校のときは29〜30cmで完全オーダーメイドしか無理らしいので、しょうがないからデザインが似ている靴を見つけてきて勘弁してもらった。でも、「ふざけんな」という気持ちは抑えきれなかったのを覚えている。営利企業に対して納得できても、学校のような公共施設では納得できない。

私の足のサイズは「靴に指定がある」という場合でなければ私の選択肢を狭めないが、人によってはもっと大きな範囲で選択肢を狭められている場合もある。そのとき、狭められる選択肢の幅をどこまでにするのかというのは本当に難しい話だと思う。

たとえば、いかなる人にも楽しくボーリング、スキー、スケートなどを楽しんでもらえるために、すべてのサイズの靴を用意しなければならないとなったら、ほとんど使われない靴の分のコストが参入障壁となり、小資本の場合には参入できず、新規参入者が減り、競争原理が働かなくなる可能性がある。競争原理が働かなければ、サービスの改善をする動機が減り、良いサービスが提供されなくなる可能性が高くなる。その結果、サービス消費者は嫌な思いをしたり、サービス消費者がいなくなりそのサービス業自体がなくなる可能性がある。じゃあ、まったく制限をつけなくて良いとなったら、自分ではどうにもできないことに関して、選択肢が狭められるということを甘受しなければならなくなる。

なんで、このエントリーを書き始めたのかといえば、以下のまとめを読んだため。

乙武さんが残念な気分になったというのは良くわかる。自分ではどうにもできないことで他の人なら選択できる選択肢を自分は選択できなかったのだから。一方で、車椅子では入れないレストランが存在してはいけないかというと、それをしてしまったら小資本の新規参入を防いでしまうし(料理人のスタートアップができなくなる)、狭いスペースを利用した新たな営業形態の発明などを防いでしまう可能性がある。つまり、このケースは、両者に理がある。だから、私の貸靴に対する防御線のように、乙武さんも車椅子が入れない店、立地が存在する可能性を考慮して尋ねるべきだったし、レストランの人も自分の店のアクセシビリティが足りないという点を謝罪すればよかったと思う。

でも、すべてのレストランで車椅子の受け入れをしないとなったら、車椅子の人は不当に選択肢を狭められてしまう。で、思い出したのが東横イン障碍者用客室や駐車場をつぶしたという事件。

どのラインからアクセシビリティを保証しなければいけないのかと調べたところ以下の法律があるとのこと。

(特別特定建築物の建築等における基準適合義務等)
第3条 特別特定建築物の政令で定める規模以上の建築(用途の変更をして特別特定建築物にすることを含む。以下この条において同じ。)をしようとする者は、当該特別特定建築物を、高齢者、身体障害者等が円滑に利用できるようにするために必要な政令で定める特定施設の構造及び配置に関する基準(以下「利用円滑化基準」という。)に適合させなければならない。当該建築をした特別特定建築物の維持保全をする者についても、同様とする。
2 地方公共団体は、その地方の自然的社会的条件の特殊性により、前項の規定のみによっては、高齢者、身体障害者等が特定建築物を円滑に利用できるようにする目的を十分に達し難いと認める場合においては、特別特定建築物に条例で定める特定建築物を追加し、同項の建築の規模を条例で同項の政令で定める規模未満で別に定め、又は利用円滑化基準に条例で必要な事項を付加することができる。
3 前2項の規定は、建築基準法第6条第1項に規定する建築基準関係規定とみなす。

〜中略〜

特定建築物の建築等における努力義務等)
第5条 特定建築物の建築(用途の変更をして特定建築物にすることを含む。以下同じ。)をしようとする者(第3条第1項前段又は第2項の規定が適用される者を除く。)は、当該特定建築物を利用円滑化基準に適合させるために必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
2 特定建築物の特定施設の修繕又は模様替をしようとする者(第3条第1項後段又は第2項の規定が適用される者を除く。)は、当該特定施設を利用円滑化基準に適合させるために必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
3 所管行政庁は、特定建築物について前2項に規定する措置の適確な実施を確保するため必要があると認めるときは、前2項に規定する者に対し、利用円滑化基準を勘案して、特定建築物又はその特定施設の設計及び施工に係る事項について必要な指導及び助言をすることができる。

小規模飲食店は、特定建築物に区分されてアクセシビリティを保証する努力義務がある。このバランスは首肯できるところ。