がん死リスクを論じているのにタバコを用いたリスク比較が不適切?

リスク比較をするときに何を用いるかは注意を払うべきだけど、放射線被曝による確率的影響を議論する場合に、タバコや飲酒、運動不足とのリスク比較を禁じる理由がわからない。

上記のまとめで紹介されているのは農林水産省:健康に関するリスクコミュニケーションの原理と実践の入門書のリスク比較の際の注意点。

リスクの比較
(Covello他1988;Covello1989)
リスクデータを説明する時には、リスクを示す数字を他の数字と比較してみるのもよい。

以下に留意しなさい。

  • 比較によってリスクを相対的に評価できる。
  • 利益によってリスクを正当化してはいけない。
  • 関係のない比較または誤解を招くような比較は、信頼や信用を損なう。

ポイントは「関係のない比較または誤解を招くような比較は、信頼や信用を損なう。」だと思う。

リスクの比較のための指針

  • 第1ランク(最も許容される)
    • 異なる2つの時期に起きた同じリスクの比較
    • 標準との比較
    • 同じリスクの異なる推定値の比較
  • 第2ランク(第1ランクに次いで望ましい)
    • あることをする場合としない場合のリスクの比較
    • 同じ問題に対する代替解決手段の比較
    • 他の場所で経験された同じリスクとの比較

第3ランク(第2ランクに次いで望ましい)

    • 平均的なリスクと、特定の時間または場所における最大のリスクとの比較
    • ある有害作用の1つの経路に起因するリスクと、同じ効果を有する全てのソースに起因するリスクとの比較
  • 第4ランク(かろうじて許容できる)
    • 費用との比較、費用対リスクの比の比較
    • リスクと利益の比較
    • 職務上起こるリスクと、環境からのリスクの比較
    • 同じソースに由来する別のリスクとの比較
    • 病気、疾患、傷害などの他の特定の原因との比較
  • 第5ランク(通常許容できない‐格別な注意が必要)
    • 関係のないリスクの比較(例えば、喫煙、車の運転、落雷)

原子力発電所が存在するリスクを喫煙と比較するのは「第5ランク(通常許容できない‐格別な注意が必要)」であるとは思うけど、放射線被曝による確率的影響、すなわちガン死リスクを議論する場合に、他のガン死リスク要因との比較をしないほうが良い理由がわかりない。同じガン死リスクと考えれば、異なる2つの時期に起きた同じリスクの比較である「第1ランク(最も許容される)」で、要因が違うので別物とみるならば、ある有害作用の1つの経路に起因するリスクと、同じ効果を有する全てのソースに起因するリスクとの比較である「第3ランク(第2ランクに次いで望ましい)」では?

国立がんセンター:がん相対リスク(PDF)でも、がん相対リスクで利用されているし。この国立がんセンター:がん相対リスクの表にはC型肝炎やピロリ菌感染も入っているのだけど、C型肝炎やピロリ菌感染と放射線被曝による確率的影響をリスク比較するのも不適当なのだろうか?

喫煙というのがあまりにも日常的な行為であるから、放射線被曝による確率的影響を不当に低く感じさせてしまうというのが、不適切な理由であるならば、農林水産省:健康に関するリスクコミュニケーションの原理と実践の入門書の「リスクの比較のための指針」で提示されていることとは別の論点になっていると思う。