年齢制限を禁止しないと「卒業後数年は新卒扱いに…日本学術会議提言へ」

まず、新卒採用の何を問題とするかを明確にしないと議論がぶれる。

  1. 新卒採用応募の条件として年齢制限をかけること
    • 学部卒は22歳+2年、修士修了は24歳+2年。いわゆる一浪一留までOKという話。博士修了の民間就職の壁の一つがこの年齢制限。
  2. 新卒採用応募の条件が、採用活動年度の3月卒業/修了予定者であるということ
    • 既卒者は新卒採用にエントリーできない
  3. 採用期間が通年でなくある決まった数ヶ月間限定であること
    • マスコミだと9月〜12月、大手メーカーだと2月〜6月など。

新卒採用で一番問題なのは、年齢制限、次に新卒制限(既卒者を採用の対象としない)。採用期間が通年でないのは大した問題ではない(大学にとっては問題だけど、社会にとってはどうでもよい)。

日本学術会議の検討委員会(委員長=北原和夫・国際基督教大教授)は、深刻な大学生の就職難が大学教育にも影響を与えているとして、地方の大学生が大都市で“就活”する際の宿泊・交通費の補助制度など緊急的な対策も含んだ提言をまとめた。

17日に文部科学省に提出する。企業側が、卒業して数年の「若年既卒者」を新卒と同様に扱うことや、早い時期からの就業体験も提唱。学業との両立のためのルール作りも提案している。文科省は、産業界の協力も得て、提言を現状改善につなげる考えだ。

提言は大学教育の質の向上を目的としたものだが、就職活動に労力と時間を取られ、それが学業にも悪影響を与えているとして、就業問題の解決策に踏み込む異例の内容となった。

具体的には、大学側に、卒業後3年程度は就職先の仲介や相談といった就職支援体制をとることを求め、企業側には、若年既卒者も新卒者と同枠で採用対象とするよう求めた。さらに、平日は学業に集中し、就職活動は週末や長期休暇期間に集中させるルール作りなど、大学と企業側が協力しての対策にも言及している。

5日発表の文科省の学校基本調査では、大学を今春卒業したが就職も進学もしなかった「進路未定者」が5年ぶりに10万人を突破した。今回の提言では、「新卒優先」の日本の労働市場の構造が大学生の就職問題を一層過酷なものにしていると指摘している。

学術振興会が気にしているのは新卒制限と採用期間。社会における多様性を維持するのが大学の一つの目的とするならば、一番重要なのは年齢制限。ここに踏み込まないと。

年齢に関係ないエントリーレベル(従来の新卒と同じ意味合い)を作るためには、リンク:from 911/USAレポート / 冷泉 彰彦:第436回 「既卒インターン制度のすすめ」でも引用した冷泉さんの提言の方が良いと思う。

仮に「就職氷河期」が再現し、いや更に悪化した形で続くような場合、しかも企業が終身雇用制を崩すのに時間がかかる場合、このまま放置しておけば、「第二のロスジェネ」ないし「ロスジェネの固定化」といった事態に至ることが考えられます。これは大変なことです。それは、正規雇用に就けない世代が大量に発生するということだけではありません。高等教育を受けた人材が活用されずに放置され、スキルの伸びる時期にスキルを磨くことができずに年齢を重ねるというのは、人材が唯一の資源だと言われる日本社会の一層のパフォーマンス低下を招くことになるからです。

これを避けるために、即効性のある方策として

  • (1)既卒者の採用拒否を禁止する、
  • (2)既卒者の有給インターン制度を設ける、の二点を提言したいと思います。

(1)に関しては、今年の4月に書いたように理不尽ながら日本の民間企業では堂々と横行しています。「新卒は大学在籍中だから身元が安心」「年功序列ヒエラルキーを崩したくない」「他社の色が付いた人材は鍛えにくい」・・・色々と企業には言い分はあるでしょう。ですが、「就職留年」をさせて「自己分析」や「業界研究」をした方が有利で、しっかり既卒で働いて社会経験をするのはダメというのはどう考えても理不尽です。派遣の薄給に耐える中から社会を見た人間は「労使関係の本質を知りすぎているから使えない」というのがホンネなら、財界は総じて「ブラック企業」と言われてもおかしくないと思うのです。
from 911/USAレポート / 冷泉 彰彦:第436回 「既卒インターン制度のすすめ」より)

採用時の年齢制限は法律で禁止されているのにも関わらず、新卒採用時の年齢制限が許されているのは以下の例外事項が認められているかららしい

ただし、この年齢制限禁止には例外がある。合理的な理由で例外的に年齢制限が認められる場合(例外事由)が厚生労働省令で規定され、(1)長期勤続によるキャリア形成を図る視点から、若年者等を募集・採用する場合、(2)技能・ノウハウ等の継承の観点から、特定の職種において労働者数が相当程度少ない特定の年齢層に限定して募集・採用する場合、(3)芸術・芸能の分野における表現の真実性等の要請がある場合、(4)60歳以上の高年齢者又は特定の年齢層の雇用を促進する施策の対象となる者に限定して募集・採用する場合、(5)労働基準法等法令の規定により年齢制限が設けられている場合、(6)定年年齢を上限として募集・採用する場合、の計6項目が案として示されている。
リクルート ワークス研究所:募集・採用における年齢制限禁止についての一考察より)

なので、この例外事項をいじれば法律上は年齢制限をすることを禁止できる。新卒採用の話と大学卒業者の品質を管理せよという話は密接に関連するので、セットで変更してもらわないと大学も身動きがとれない。年齢制限の話は博士のキャリアパスにも関連すると思うのでどうにか禁止してほしい。

  • 研究者の不安定雇用(ポスドク含む)における労働問題の側面については「就職における年齢差別反対」の1点のみを主張する
    • 研究者の不安定雇用を労働問題の側面で押し出すと非正規雇用の話を持ち出され一蹴される(当然の話)
    • 研究者の不安定雇用の話は、科学者キャリアパスの理想像とのギャップにおいて問題とするべきで、個々人の雇用の安定の話では問題するべきでない
    • 博士の民間や行政での活用や科学者キャリアパスにおける出身背景の多様性の維持を阻む重要な問題の一つは「就職における年齢差別」。別名「新卒主義」。
    • 「就職における年齢差別」は第二新卒ロスト・ジェネレーション世代、リストラによる解雇された人の再就職者、定年後の就職活動者などにとっても同じように重要な問題
    • まずは、国家公務員1種試験の受験資格から年齢制限とポストドクター採用の年齢制限を廃止する
    • つぎに、新卒採用の根拠となっている「募集・採用時の年齢制限禁止」の例外事項をはずす
    • その後、退職金に対する優遇税制を廃止する