競争と公平感

大学がいくつ必要か、大学の教員についてテニュアトラックを導入するかどうか、研究助成金の競争的配分が良いか悪いかなど、研究者を取り巻く議論では「競争が必要だ!」「いや、短期的競争は腰をすえて研究ができなくなるから良くない」と競争に関して意見がわかれる。

この本は、主に市場競争について述べている本。

市場競争とは、いわばインセンティブの与えられ方の一つである。厳しい競争にさらされるのはつらいかもしれないが、私たちは競争そのものの楽しさや競争に打ち勝ったときの報酬があるから競争に参加する。しかも、市場競争を通じた切磋琢磨は、私たちを豊かにしてくれるという副産物をもたらす。
(p. xi)

本書の肝は以下の部分にあると思う。

市場への参入規制が強ければ、市場参加者の中での競争は少なくなり、全員が高い利潤をあげられる。しかし、規制が緩和されて、市場競争が激しくなると、市場参加者の間での格差が大きくなうr。そうした市場競争を嫌う感情はだれにでもあるものだろう。参入規制が強いと、市場参加者と参加できない者との格差が大きいが、その格差はあまり実感されない。ところが、誰でも競争に参加できるようになると、競争に参加している者同士の格差が明確になる一方で、市場参加者は市場競争に勝ち残るために一所懸命努力する。このような市場の厳しい規律付けは、誰にとってもつらいものだ。競争が大好きと言う人も多いかも知れないが、常に競争を強いられるのはつらい、というのが多くの人の本音だろう。

だからこそ、市場の失敗が明らかになると、もともと市場を憎んでいた人たちの声が大きくなり、反市場主義の世論が高まってしまう。逆にいえば、市場競争が多くの人にとってつらいものであるからこそ、市場競争のメリットがそれ以上にあることを、私たち自身が努力して認識し続けなければならない。
(p. 68より、色変更はnext49)

他に面白いと思った点は以下のとおり。

  • 日本の漁師さんたちは、漁船をスピードがでて、漁場に一番のりできるようにセッティングしている。理由は、漁獲総量が決まっているので早くいって制限の中でとれるだけとったほうが有利なため。
  • 子ども時代に好況だったか不況だったかで、「人生で成功をおさめるために必要なのは勤勉さか、それともコネや幸運か」の答えが変わる。好況の場合は勤勉。不況の場合はコネや幸運。日本で、勤勉の価値観が薄れているのは長く続いている不況が影響しているのではないかという指摘
  • 経済問題へのウィキノミクスの手法を適用することを提案。政策決定に必要な各種データを公開することで、世界中の研究者に分析してもらえれば、役所が諸業務の片手間にデータを分析するよりも、よりよい結果を得られることが期待される。(pp. 57 - 63)
  • 日本の小学校〜高校では、市場競争のデメリットについては教えるが、メリットについては教えていない。これが、反市場競争の思想につながっているのではないかという指摘。
  • p. 151からの「有権者が高齢化すると困ること」の全部。

市場競争への不信感を持っている方にオススメの本。

追記:なんでこんなに本を連発して出すの?

に対して、言及された方々へ返信をしている。

まさにその理由が本書に書いてある。

でも、漁師の仕事はきつくて、どの働き方の漁師も一週間の労働時間は40時間だとしよう。毎日の天候がランダムに変化しているとしよう。このとき、毎日8時間タイプ、目標漁獲高タイプ、大漁時集中タイプのどの漁師が、一週間での漁獲高が一番多くなるだろうか。

毎日8時間きっちり働く人や目標漁獲高をきちんと決めている人が、漁獲高が多いように思えるかもしれない。しかし、答えは大漁のときに集中してはたらくタイプである。

〜中略〜

若手芸能人や歌手が売れっ子にんると、ほとんど寝る間もないほど働き続けるのも、同じ理屈だ。人気がいつまで続くかわからない以上、仕事の依頼がある時には、睡眠時間を削ってでも出来る限り引き受けて、人気がなくなったときに十分休めばいいのだ。

上記著者の方々がそう思っていなくても、依頼する出版社はかなりそう考えていると思う。