続・科学と技術の違い?

科学と技術の違い?の続き

これまでの流れ

技術とは何か?

takehikomさんから出典つきで技術とは何かを教えていただいた。

想像ですが,id:next49 さんがこれらを読み飛ばしているはずはなく,おそらく「設計」「デザイン」という言葉を,そこで言及されているからという理由で使用しても,読者に意図が伝わらない,あるいは,読者それぞれの持つ「設計観」「デザインに対するイメージ」で読まれてしまう,といったことを危惧されたのかなと思っています.

takehikomさんは、私を買い被り過ぎ。「すべてのアメリカ人のための科学」とJABEEの認定基準以外はすべて読んでいたのだけれども、素朴に「設計」が何を示しているのかをわからなかったので「技術の本質が設計」というのは意味がわからなかったというのが実際のところ。「すべてのアメリカ人のための科学」からの引用「工学の本質は制約の下でのデザインである」はとても良く分かる。ここいらへんは、用語の多義性と専門用語と日常的な用語の意味の違い、英語と日本語の対応のずれがあるような気がする。

実際、はてなブックマーク - 科学と技術の違い? - 発声練習では以下のように技術がどういう意味を持つのかについていろいろと指摘された。

  • arakik10 「技術」という用語も technology と engineering (これは「工学」と訳すけど)のどちらを軸に考えるかで異なってくる…んじゃないかなあ。
  • hokuto-hei いわゆる技術にはtechnologyとengineeringの他にartがあると思う。
  • santo 「技術」と"Technology"の差を指摘しておきます。前者は「術」であって職人芸と認識されてきた。後者は"logy"とあるように言語体系。言語は属社会で共有され、術は属人で伝承される。その意識差が日本の(ry

また、先のエントリーのコメントでもたつみさんから以下のコメントをいただいた。

すごく大雑把に定義すれば、
科学:「対象→人間」観察によって対象をわかろうとする
技術:「人間→対象」人間が思ったことを対象に表現する
理科:科学のうち、対象を自然に限定し、その領域の知識を積み上げたもの

広辞苑第5版によれば技術とは以下のように定義されている。

  • ぎ‐じゅつ【技術】
    • (1)[史記(貨殖伝)]物事をたくみに行うわざ。技巧。技芸。「―を磨く」
    • (2)(technique) 科学を実地に応用して自然の事物を改変・加工し、人間生活に役立てるわざ。

私は、技術というと1番目の意味を連想し、2番目の意味を体系化したものを「工学」として理解している。そして、工学の別名を「応用科学」と理解していた。

  • こう‐がく【工学】(engineering)
    • 基礎科学を工業生産に応用して生産力を向上させるための応用的科学技術の総称。古くは専ら兵器の製作および取扱いの方法を指す意味に用いたが、のち土木工学を、さらに現在では物質・エネルギー・情報などにかかわる広い範囲を含む。

広辞苑第5版)

  • 工学 engineering
    • 物質の性質や動力源を,建造物,機械,製品として人間に役立たせるようにする科学.

マグロウヒル科学技術用語 第3版)

technology、engineering、technique、artの違いについて本当はOxford English Dictionaryを引くべきだけど、Windowsパソコンを立ち上げるのが面倒なので、LDOCE 第4版で代用。

  • technology
    • new machines, equipment, and ways of doing things that are based on modern knowledge about science and computers
  • engineering
    • the work involved in designing and building roads, bridges, machines etc
  • technique
    • a special way of doing something
    • the special way in which you move your body when you are playing music, doing a sport etc, which is difficult to learn and needs a lot of skill
  • art
    • (6番目の意味)the ability or skill involved in doing or making something

この意味合いで言うと、私の「技術」の意味合いに近いのは technologyとtechnique、art。中学校の技術・家庭科で習ったのに近いのはtechnique。

こういう認識だったので、「技術の本質が設計」は正直理解できなかった。ちなみに設計の意味は以下のとおり。

  • せっ‐けい【設計】(plan; design)
    • (1)ある目的を具体化する作業。製作・工事などに当り、工費・敷地・材料および構造上の諸点などの計画を立て図面その他の方式で明示すること。「ビルの―」
    • (2)比喩的に、人生や生活について計画を立てること。

広辞苑第5版)

  • design (名詞)
    • the art or process of making a drawing of something to show how you will make it or what it will look like
    • the way that something has been planned and made, including its appearance, how it works etc
    • a drawing that shows how something will be made or what it will look like
  • design (動詞)
    • to make a drawing or plan of something that will be made or built
    • [usually passive] to plan or develop something for a specific purpose

takehikomさんのエントリーのおかげで「技術とは何か?」が分かったように思う。ありがとうございます。

じゃあ、技術教育として何を教えたらよいの?

先のエントリーで列挙した本はまだ読んでいないので以下の意見はについては根拠なし。

技術者(科学的知識を社会や時代の文脈に沿ってどのように利用するのかを考え、実際に利用できる人材)への教育は、技術の消費者への教育の発展的内容として、教えられるべきだと思う。なぜならば、すべての人間が技術者になる必要はないけど、現代社会におけるすべての人間は技術の消費者であるため。

私の考える技術の消費者として理解(納得)していて欲しい事柄は以下のとおり。

  • 「誰かが技術を設計し実現しなければ、どんな単純で面白みのない技術であっても、この世の中には存在しない」ということ
    • 人間の関与なく存在する技術はありえない
    • 自分が当たり前に利用している技術は、すべて誰かが生み出してくれた
  • 「すべての技術は、自分と同じような『単なる人間(神や超人ではない)』によって設計され、実現されたものである」ということ
    • 自分がミスをするならば、その技術の開発者や運用者もミスをしている可能性がある
    • 自分の発言や作品を自分の意図したのとは違うように他人に受け止められたことがあるならば、自分もある技術をその技術の開発者が想定していない用途に使おうとしているかもしれない
  • 「すべての技術は、ある文脈の下において有効だと考えられて設計され、実現されたものである」ということ
    • ある技術がAという文脈の下で役にたったとしても、Bの文脈の下で役に立つかかどうかは、利用者が検討しなければならない
    • ある技術が役にたたなかったとき、自分がその技術を適切な文脈で使っているかどうかを検討しなければならない
  • 「副作用のない技術は存在しない」ということ
    • ある技術がAという文脈の下で役にたったとしても、Bの文脈の下では何か損害を与えるかもしれない
    • あり得るすべての文脈において、損益を把握し、技術の採用をしなければならない
  • 「ある技術において、ある性質を高めるためには別の性質を低めなければならないことがある」ということ
  • 「技術の成果物は、工業製品だけではない」ということ
    • 「〜科学」と「〜工学」の広がりを踏まえた上で、「ものづくり」のみにこだわる必要はない

これらが理解(納得)できていれば、あとは日常のいろいろな体験から演繹的に細かい事柄を自主学習できると思う。なので、上記のことが理解(納得)できるのであれば、どのような教え方や題材、体験でも良いと思う。技術の消費者としての学習は、すべての日本国民が受けるべきであると思うので、義務教育期間で行なえるのがベスト。理解力や授業時間が足りないのであれば高校まで延長しても良いと思う。

一方で、技術者向け教育は、高校以降で行なうのが良いと思う。ただし、技術者向け教育の基礎は、小学校、中学校、高校でも行なわれるべき。JABEEの認定基準で求められているデザイン力の内訳は、学習指導要領における各教科の目的でお目にかかる言葉ばかり。

実際のデザインにおいては,構想力/課題設定力/種々の学問,技術の総合応用能力/創造力/公衆の健康・安全,文化,経済,環境,倫理等の観点から問題点を認識する能力,およびこれらの問題点等から生じる制約条件下で解を見出す能力/結果を検証する能力/構想したものを図,文章,式,プログラム等で表現する能力/コミュニケーション能力/チームワーク力/継続的に計画し実施する能力
(「技術のエッセンスは,設計」より孫引き)

大学教員としてだんだん感じているのは、人間は工業製品ではないので同じ内容で同じ教え方をしても、人によって何を学び、どう成長するかは異なるということ。あとは、教えられたことを理解するタイミングは人によって違うということ。ある人は教えられた直後に理解し、ある人は10年後に理解する。だから、技術者向け教育の基礎も、個々の基礎をどれぐらい身につけているのかは濃淡あっても良いと思う。でも、種が植え付けられているというのは重要なので、技術者向け教育の基礎は種の植え付け段階と割り切り(場合によっては、技術者向け教育の段階も種の植え付けと割り切る)、誰にでも必要と思われる事柄のエッセンスを網羅的に教えるのが良いのではないかと思う。