スーパーコンピューターは国内開発を続けるべきだと思う

いまさらながら#shiwake3 wiki - (独)理化学研究所?(次世代スーパーコンピューティング技術の推進)テキストを読んだ。

事業仕分けにおける次世代スーパーコンピューティング技術の推進への批判の中心的部分は手続きの問題であって、具体的には「当初計画は富士通、日立、NECの3社合同開発だったのが、日立とNECの製造段階からの撤退という大きな計画変更があったが、それに対する十分な説明を行っているとは思えない」につきると思う。

なので私の感想からいうと、一旦製造開始を止めて、今回の事業仕分けで言われた質問、および、国民側から出た質問にすべて回答して、国民側に納得感を持ってもらった上でスーパーコンピューターは国内開発を続けるべきだと思う。

なぜ、企業任せでなく、国が主体的にスーパーコンピューターの話を行わなければならないかといえば、仕分け人の金田先生の話がその理由だと思う。

まず1番重要なのは、技術、技術というか、日本の場合はスーパーコンピューター、非常に酷い状況にあるんですよ。80年代、日米貿易摩擦が起こるまでやったときは、日本の汎用機で儲けた金をつぎ込んでやってくれてたんです。ほんとにありがたいと思いますよ。それが、儲けがなくなって、スーパーの最先端技術、これは戦略的な技術だと私は思いますけれども、その技術者が、要するに、儲からないものには当然投入しませんわね、開発にしろ。そのための技術がもう途絶えかけているんですよ。ハードウェア、ソフトウェア、チップのプロセッサ、製造技術、それを使いこなす技術、OS、ライブラリ、コンパイラも含めて。それをなんとかしたいということで、それは各民間にはできないということがあってそれをやりたいと。
(#shiwake3 wiki - (独)理化学研究所?(次世代スーパーコンピューティング技術の推進)テキストより)

一方、牧野淳一郎:スーパーコンピューティングの未来の「 x86 プロセッサの将来 (2009/2/28)」と「2009/11 「仕分け」雑感 (2009/11/25)」を読んで、デスクトップ用途のCPUとGPUで求められる性能とスーパーコンピュータ用のCPUとGPUで求められる計算性能の差が乖離するため、スーパーコンピュータ用CPUやGPUは開発しても売れないので半導体メーカーは撤退し、スーパーコンピュータ用のCPUとGPUは国が開発しないとどこも開発しない未来が来るのではないかと思った。

以上より、日本でスーパーコンピュータを演算チップから開発するのは技術投資として悪くない話なのではないかと考えた。あとは、価格性能比に折り合いがつくかどうかの問題だと思う(ただし、今現在、科学用あるいは産業用シミュレーションを行うために必要とされている高性能計算機をどうやって調達するかは、日本でスーパーコンピュータを演算チップから開発するかどうかの話とは別の話)。

また、金田先生が指摘している「インフラとしてのスーパーコンピューター」については、次世代スーパーコンピューティング技術の推進の話と切り離して、予算をつけて、早急に解決すべき。直近で高性能計算機でのシミュレーションが必要な分野の研究や開発が滞る可能性が高いのはこちらの話。金田先生の発言を私なりに理解すると以下のようになる。

  1. 若手人材の育成および適度な競争による技術進歩を促すために、超巨大なスーパーコンピューターを1つ作るだけでなく、高性能計算機を用いたシミュレーションが必要な研究分野ごとに拠点となるような、計算機センターを複数用意すべき
  2. 各計算機センターを仮に大学に設置したとしても、計算機センターは大学とは独立に運用され、計算機を使いたい利用者に平等に計算資源を提供するようにすべき(利用者選定委員会を大学内の有識者で組織したとしても、他者の研究の異議について正しく理解できる保証がない。それならば、利用料金を払えば誰でも利用できるようにしたほうが結果として、新たな研究の芽を育てることができる)

以下の発言から始まる「1位でなければ意味がないのか」という話については、返答はとても難しい。たぶん、文部科学省理研の理屈はこう主張したかったのだと思う

  1. 10petaクラスのスパコンがあれば、シミュレーションの質が変わり、現在想定できなかった新たな研究成果・産業応用が生まれる可能性がある
  2. スパコン上でのシミュレーションは、ハードウェアの性能を最大に引き出すプログラミングが必要であるため、使用したいハードウェアがなければプログラミングができない
  3. スパコンを国内に持っていれば、国内プロジェクトに優先的に貸し出すことができる
  4. 10petaクラスのスパコンをいち早く開発することで、国内の10petaクラスのスパコンを使わなければ行えないシミュレーションを用いたプロジェクトが他国に対して時間的優位を保持できる

文部科学省が言っていた「スパコンというシミュレーションの世界においての問題でございます。その点で不利な状況になるということでございます。」は「国内の10petaクラスのスパコンを使わなければ行えないシミュレーションを用いたプロジェクトが他国に対して時間的に劣位におかれる」ということだと思う。この点に関してリスクヘッジできるかと言う点に対しては、シミュレーション開発人員に優秀な人材を投入すること&スパコンを優先的に使わせることで時間的劣位を跳ね返すしかない。

「外国から買えばいいんじゃない?」という話については、それは最先端のスパコンを使わないとシミュレーションできない研究やビジネスからの事実上の撤退を意味するので、それを許すかどうかの話となると思う(研究ならば新規性を主張できなくなるので完全に撤退するしかない。ビジネスならば、常に先行者利益を跳ね返す努力が必要となる)。

まあ、問題は「最先端のスパコンを使わないとシミュレーションできない研究やビジネス」が存在するかどうかとも関わってくるけれども。この観点からすると、今の日本の科学研究や産業において、どのくらいのスペックのスパコンが必要とされているのか、将来的にどれくらいのスペックのスパコンがあれば新規研究・ビジネスが立てられそうなのかの市場調査が必要となると思う。