参加記(2):明日から始める情報発信

第2回 博士ネットワーク・ミーティング@つくば参加記の続き

このテーマを宣言したのは私。理由は、昨日の事業仕分けワーキンググループ3の結果とTwitterの#shiwake3での発言を見て、いろいろと危機感を覚えたため。

何に危機感を覚えたのかというと以下の2点。

  1. 研究者・研究賛同者とその他の人たちとの間に思いっきり溝がある
  2. 研究者と研究賛同者があれほどまでに盛り上がって憤慨していたのに、それに対する何かしらの行動がすぐに行われなければ、研究者と研究賛同者は「口先だけのヤツラ」とみなされかねない

科学研究が神聖不可侵の特権的地位にあったのははるかな昔。今や、科学研究の存在価値が非研究関連者からは全くわからなくなっており、「なぜ、不況の今、科学研究を行わなければならないのか」という素朴な疑問に研究関連者は誠実に答えなければならない時代となっている(みたい)。

どうして、研究者と研究賛同者以外の人たちが上記のように思うのかといえば、研究者と非研究者の距離があまりにもはれてしまったため、研究者が社会に対して何かしらのフィードバックをしているように見えないからだと思う。この状況は良くない。一番のスポンサーである国民のみなさまが研究者ならびに科学研究の有用性に納得してくれなければ、研究資金を税金から求めるのは非常に難しいのはとても当たり前のこと。だから、研究者は非研究者の方々に、「われわれは社会に何かしらのフィードバックを与えていますよ」ということを早急にアピールしなければいけない。

一方、研究者と研究賛同者も何かしらの行動を起こして、非研究関連者の方々に科学研究の重要性を理解してもらい、事業仕分けワーキンググループ3の結果をある程度覆したいと思っているはず。鉄は熱いうちに打たねばならない。この行動が1週間後、1ヵ月後、はたまた、1年後であれば、小飼さんの愛ある煽りに応じられないことになってしまう。

そこで、個人個人が明日からすぐに始められる情報発信とはどういうことかを議論してみた。

ブログで情報発信

研究者と非研究者の溝が深くなり、研究者が非研究者にとって理解できない存在になるのはとてもまずい。そこで、ブログで情報発信をすることで「研究者っていうのも、案外私たちとおんなじなんだなぁ」と思ってもらうのが狙い。

議論では「ブログの内容は研究的なことが良いのか、それとも日常生活のことなどが良いのか」という質問がでたけれども、どちらでも好きなことを書けば良いのではないかというのが結論。ただし、ACADEMIC RESOURCE GUIDEの岡本さんからのアドバイスとして「科学的な視点を必ず含めるべき」とのこと。何を題材にして書いても良いけれども、「なるほど、さすがは科学者だ!」と読者に思わせるような点があったほうがよいのではないかということだった。

また、「実名で書くべきか、ハンドルネームで書くべきか」という話については、どちらでもよい、ただし、所属機関に迷惑がかかることを恐れるならばハンドルネームが無難という結論になった。ただし、岡本さんのアドバイスとして、「継続して同じハンドルネームで発言を積み重ねるべきだ」とのこと。ブログはフローのメディアであると言われているが、発言の信頼についてはストックがかなり重視される。いくらいつも良いことを言っていたとしても、一度のとんでもない発言でその信頼性ががた落ちになる。そのリスクをちゃんと負っているかどうかを読者は見ているということだった。

「研究者としての業績ページとブログを関連させるべきかどうか」という話については、結論はでなかった。上の「実名で書くべきか、ハンドルネームで書くべきか」に応じてわけるべきだろうけれども、読む人が読めば、内容から「ああ、あれは〜の**さんだな」とわかることもあるとのことだった。

ちなみに私がブログを始めた理由はこのブログ名についてに書いてあるけれども、2年前くらいから、非研究者に「研究者っていうのはこんな感じなのか」というのを理解してもらうネタを提供するのも目的として、いろいろなエントリー(特に卒業研究は会社に入っても役に立つよ!ということ)を書いている。

業績ページによる情報発信

今や、まともな研究者ならば業績リストが書いてあるWebページを持っているのは当たり前となったが、これはあくまで専門家用。非研究者の人がこの業績リストをみても、ほとんど情報が得られない。そこで、この業績ページに非研究者用の情報を載せてはどうかという提案。

この提案の元となったのが轟さんのセルフアーカイビングの話と第5回 SPARC Japan セミナー2009:「オープンアクセスのビジネスモデルと研究者の実際」でのオープンアクセスにしておくと論文を非研究者の人が読むという話。

そこで提案の内容は以下のとおり。

  • 自分が公表した論文をダウンロードできるようにしておく(セルフアーカイビング)
  • 自分が公表した論文の概要を日本語訳し、それをリンクしておく
  • 自分の研究の目的や位置づけ、狙いを非専門家向けの分かりやすい言葉で説明した文書を載せる

この提案に対して「著作権は大丈夫か」という質問があったけれども、自分の公表論文のダウンロードについては、セルフアーカイビングにリンクしてあるとおり、学協会ごとに条件は違えど許している。概要については、たぶんそれをやっても苦情申し立てが来ることはないと予想(そもそも、概要は誰でも読めるようにしてあることが多いので)。

岡本さんから、国立情報学研究所が開発し、公開しているリサーチマップを使えば、上記のような業績ページが作れるし、将来は、公表論文リストを列挙しておけば、学協会ごとのセルフアーカイビング条件を自動で調べてくれるかも知れないと助言をいただいた。

また、同じく岡本さんから「大学院修士の学生ならば、他人の書いた論文を読み込み、それの解説を書けなければ修士論文を書くことはできないはずなのだから、教育の一環として、公表論文の解説文をつくってもらい、それを公表したらどうか」というアイデアもいただいた。

あと、神はサイコロを振らないのikura_chanさんから「私の属していた研究室では、第一筆者は、論文の概要を日本語訳し、それを公開するまでも著者責任に入っていた」と教えてくださった。研究の分野的にちゃんと非研究者向けに成果をアピールしないと治験ができなかったとのこと。

Wikipediaにおける自分の専門分野の更新

研究者と非研究者の溝を埋めるために、研究者側が非研究者側に歩みよるのは当然のことながら、できるならば、非研究者側を研究者側に引き寄せたい。そのときに問題となるのが、専門知識習得の敷居の高さ。

非研究者がある専門分野に興味を持ち、情報収集を始めたとき、最初に目にするのが論文であるならば、はっきりいって学ぶ気をなくすだろう(論文を読む訓練をしている大学院生、および、訓練を終えた研究者ですら、自分の専門分野外の論文を読むのはしんどいのだから)。

そこで、非研究者が情報収集をはじめたときの入口として、入門的な知識がまとまっているページが見つかるととても楽。その入門的ページを研究者が用意したならば、「研究者が社会に何かしらのフィードバックを与えていますよ」というアピールになるのではないかという狙い。

できれば、先の#shiwake3のリアクションをアピールするためには、「何月何日にいっせいのせー」で研究者が一斉にWikipediaの自分の専門分野のページを更新し、それを何らかの数えられる形でアピール(たとえば、私のページで呼びかけて、更新が終わったらそのページにトラックバックを打つ)できれば、そこそこのインパクトがあるのではないかと思う。

専門家の紹介

Webによる情報発信から少し離れるけれども、非研究者がある専門分野に興味を持ったときに知りたいのは「どこの誰に教えを請えばこの話を学べるのか」ということ。すなわち、それを教えてくれる専門家を知りたい。

岡本さんから研究者はこの専門家紹介のハブ(仲介人)となれるべきじゃないかという意見をいただいた。実際に岡本さんへ「どこの誰に教えを請えば**を学べるのか」「どの大学にいけば**が学べるのか」という問い合わせが多いとのこと。

まとめ

明日から始める情報発信ということで話し合ったため、基本的にWebベースの情報発信が多くなった。ただ、現状を憂えるだけでなく、今すぐに一人でも良いから行動を始めるという観点からすれば、Webベースの情報発信でもやらないよりはマシだろうと思う。

もちろん、個人でできることには限界があるので、ある程度の時間をかけて科学者団体を構築するのはとても重要だとおもう。