競争的研究資金と間接経費

ニューロサイエンスとマーケティングの間 - Being between Neuroscience and Marketing:日本の大学の資金力のなさはどこから来るのか?:国内大学強化に向けた考察2での疑問

アメリカの5分類のいずれにも相当しない、いわゆるお上からのお金、運営交付金補助金が56%も占めている。一方、グラントにあたるものがない。これは米国の場合、グラントはまず一度大学に入り、何割かの大学への上納金(天引き率は大学によって異なる。一般に有名大学ほど高い)を差し引いたあと研究室に振り替えられる仕組みがあるが、日本ではそのような仕組みになっておらず、ラボに直接入るのではないかと思われる(誰か詳しい人がいれば教えてください)。若干余談になるが、米国では、サイエンス系ファカルティの給料の多くは、大学が出しているのではなく、グラントから大学が許可する給料の額分支払われる*5。つまり文字通り自力で稼ぐ必要がある。これには驚く人が多いのではないか。

東大の18年度決算報告(PDF)によれば、

経常収益は、運営費交付金などの国費が約49%、自己収入約29%、外部資金約22%という構成比率です。
国費には運営費交付金収益、施設費収益及び補助金収益が該当し、今期は総額約857億円、前年比31億円の減額(前年比約3.5%減)となっています。主に国の効率化係数の影響などがその要因となります。
自己収入には、学生納付金収入(授業料収益・入学料収益・検定料収益)、病院収入、雑収入が該当し、今期は総額約513億円で前年比約9億円の増額(前年度1.8%増)となります。主な要因としては、病院収入の増額(前年比約3億円増)のほか、特許料収入などの雑収入が約4億円増収したことなどによるものです。
外部資金は、受託研究・共同研究・寄附金などが該当し、今期約378億円で前年比約26億円の増額(対前年比約7%増)となっています。

とあるので、補助金と産学連携のお金が外部資金となるのではないかと。それでも、アメリカの大学とは財務体質が違うのは明らかだけれども。日本の国立大学の財務状況を知りたい方はこちらの資料がおすすめ。大学別論文数もあるので、だれか気力がある人が論文数と運営交付金、外部資金取得状況の3つの関係を分析してくれるとうれしい。

資金の運用に関して言うと、東京大学も含めて国立大学法人は独立法人化まで同窓会組織をまともに作ってこなかった(大学がまったく関与していない)。一方で、私立大学の多くは、大学の事務組織の一部として「学生課」や「同窓会課」が存在し、大学が主体となって同窓会組織をまとめている。この結果として、ほとんどの国立大学法人は寄付金をうまく集められなかった。東京大学は、ネームバリューと機動力の高さを生かして2008年7月までに130億円を集めた。

私立大学はもともと大学基金をもち、運用してきたがいくつかの大学が金融危機の影響を受けた(でも、運用は単年度でみてもしょうがないと思うのでマスコミが煽りすぎだと思う)。これについては金融パニックのときこそ金融リテラシーが必要に書いた。元本保証縛りがあるらしく、うまく運用できていないらしい。

ところで、コメント欄にもコメントがあるけれども、国が出す競争的研究資金には間接経費(直接経費のX%という計算が多い)がついてくる。昔は、科学研究費補助金などは申請した研究者自身が直接管理していたらしい(申請者が用意した口座に直接振り込まれていたらしい)。けれども、資金の管理に関する問題が発生したので、今は必ず研究機関に振り込まれ、資金管理と事務手続きは研究機関が行うことになっている。間接経費はこの研究機関に対して支払われる。間接経費の用途は大学によってまちまち。私が知る限り民間の研究助成は数百万(私の分野では100万〜300万円)を単年度で助成してくれるものが大半で、これらには間接経費はない。

1 間接経費の使途
間接経費は、科学技術振興調整費(以下「調整費」という。)を獲得した研究者の研究開発環境の改善や研究機関全体の機能の向上に
活用するために必要となる経費に充当する。具体的には、調整費による研究の遂行に関連して間接的に必要となる経費のうち、
以下のものを対象とする。

(1)管理部門に係る経費
      −施設管理・設備の整備、維持及び運営経費
      −管理事務の必要経費
          備品購入費、消耗品費、機器借料、雑役務費、人件費、通信運搬費、謝金、国内外旅費、会議費、印刷費等

(2)研究部門に係る経費
      −共通的に使用される物品等に係る経費
          備品購入費、消耗品費、機器借料、雑役務費、人件費、通信運搬費、謝金、国内外旅費、会議費、印刷費等
    −当該研究の応用等による研究活動の推進に係る必要経費
          研究者・研究支援者等の人件費、備品購入費、消耗品費、機器借料、雑役務費、通信運搬費、謝金、国内外旅費、
          会議費、印刷費、新聞・雑誌代、光熱水費
      −研究棟の整備、維持及び運営経費
      −実験動物管理施設の整備、維持及び運営経費
   −研究者交流施設の整備、維持及び運営経費
      −設備の整備、維持及び運営経費
      −ネットワークの整備、維持及び運営経費
      −大型計算機(スパコンを含む)の整備、維持及び運営経費
      −大型計算機棟の整備、維持及び運営経費
      −図書館の整備、維持及び運営経費
      −ほ場の整備、維持及び運営経費等

(3)その他の関連する事業部門に係る経費

      −研究成果展開事業に係る経費
      −広報事業に係る経費等

 このほか、機関の長が研究課題の遂行に関連して間接的に必要と判断する経費が
対象となるが、直接経費として充当すべきものは対象外とする。

間接経費は、競争的研究資金をより効果的・効率的に活用するために、研究実施に伴う研究機関の管理等に必要な経費を手当てする必要があることから、競争的研究資金を獲得した研究者の所属する研究機関に対して、研究費に対して一定比率の額を配分するものである。

間接経費の配分は、創造的な研究開発活動を展開できるよう競争的な研究開発環境を整備する観点から、平成13年3月に閣議決定された第2期科学技術基本計画において、競争的研究資金の拡充とともに、システム改革の重要な柱として定められた。

これにより、多くの競争的研究資金に間接経費が導入されるようになったが、科学研究費補助金においては、一部の研究種目については早くから措置されてきているものの、未だに措置されていない研究種目も多く、できるだけ早期に全ての研究種目に措置することが強く望まれる。

科学研究費補助金においては、平成17年度において、特別推進研究、基盤研究(S)、基盤研究(A)、若手研究(A)及び学術創成研究費について、研究者に交付される研究費(直接経費)の30パーセントに相当する額が、間接経費として別途研究者の所属する研究機関に配分されており、そのために措置された予算総額は約143億円となっている。しかし、特定領域研究、基盤研究(B)、基盤研究(C)、萌芽研究、若手研究(B)などの研究種目においては未だに間接経費が措置されていない。

間接経費は、競争的研究資金を獲得した研究者の研究環境の改善や研究機関全体の機能の向上に活用するものとされ、研究機関は研究者が獲得した複数の競争的研究資金に配分される間接経費をまとめて、効率的かつ柔軟に使用することとされている。研究機関がこうした間接経費の運用を行うことで、研究機関間の競争を促し、研究の質を高めるものとされている。このように、競争的研究資金をより効果的・効率的に活用するために、研究実施に伴う研究機関の管理等に必要な経費を手当てするという趣旨で政策的に措置することとなったことを考えれば、同じような研究費について、研究種目の違いによって、配分されるものとされないものとの差が設けられていることについて、合理的な理由があるとはいえない。

現在のままでは、研究費の規模が小さい研究種目の研究費を獲得している多くの研究機関に間接経費が措置されない状況が続き、科学研究費補助金を獲得できる研究者の価値を高め、研究者及び研究者の所属する研究機関の競争促進を図るための前提条件が整備されないままとなる。また、科学研究費補助金の管理や諸手続きを研究機関に義務付けている現在において、研究機関が管理等に費やすコストという観点から見れば、研究費の規模が小さい研究種目であっても、その件数が多ければ研究費の規模が大きい研究種目とそれほど変わらないことから公平でないという意見も強い。このようなことから、いずれの研究機関も等しく競争に参加できるようにすることが肝要であり、全ての研究種目への間接経費の措置を急ぐ必要がある。

なお、科学研究費補助金の拡充を図っていく中で、第2期科学技術基本計画で掲げられた30パーセントの間接経費の措置を実現するに際しては、直接経費への影響がないようにすることが重要である。