プライヴァシー保護と性的嫌がらせ回避の挾間

大学内でのセクシャル・ハラスメント、いわゆる「アカデミック・ハラスメント」が後を絶たない。
〜中略〜
「まじめな先生は、教授室や研究室で女子学生と2人きりで会うことは絶対にありません。そんな状況になったときは、ドアを開けておく。学外で2人きりで会うこともない。もし、2人きりになってドアを閉じるような先生ならば注意すべきでしょう。親として、娘にきちんと教えておくことです」(同)

本質ではないかもしれないけど、アカデミック・ハラスメントは、大学教員間の権力差や教員と学生の権力差につけこんで嫌がらせをすること全般を指す概念のはずなので、「大学内のセクシャル・ハラスメント」=「アカデミック・ハラスメント」というのはおかしい。もちろん、教員が学生に性的な嫌がらせをした場合はそれはアカデミック・ハラスメントであることは間違いない。

アカデミック・ハラスメントの定義参考:

で、本題は、上記にあるとおり本来は「教授室や研究室で女子学生と2人きりで会うことは絶対にありません。そんな状況になったときは、ドアを開けておく。学外で2人きりで会うこともない。もし、2人きりになってドアを閉じるような先生ならば注意すべきでしょう」なんでしょうが、これがなかなか微妙。

しょうもない用事(他人に聞かれてもかまわない用事)ならば、ドアを開けたままで良いのだけど、その学生の成績や進路、人間関係の相談に関わることはドアを開けたままというのは、今度はプライヴァシーの問題が発生するんだよねぇ。教員の部屋というのが、学生が来ないスペースにあるのなら別なのだけど、私の勤務している学科では、学生研究室の近くに教員の部屋があるので結構学生が通る。

さらに私の場合は、学生研究室にデスクがあるので(これが私の所属する学科の方針。助教は所属研究室にデスクを持つ)困った事態に。女子学生が研究室のメンバーにいるとき、結構二人っきりになる。学生が研究室に来る時間や帰宅する時間を強制していないので当然のことなのだけど、室内に二人っきりで数時間というのはまあよくある。

セオリーどおりに振舞う場合、二人きりになった瞬間に研究室のドアを開けなきゃいけないんだけど、自意識過剰みたいで嫌だし、空調の効率やミーティングの内容が外に聞こえるという点で困る。一方で、女子学生が二人っきりになった瞬間にドアを開けたら、私は別に何も言わないし表情にも出さないと思うけど、まあ、愉快な気分ではない。「私は、今の職が好きなのでそういうことはしないよ。」と言いたい。

最近は女性の大学教員も増える傾向(国策として増やしたい)にあるので、理工系女性教員のみなさまは、より切実な問題だと思う。なんせ、男性の学生が多いし。

まあ、さらに言えば本質的には学生同士でさえ、異性同士を密室で二人っきりにさせるのは本来問題なんだよね。でも、今の日本社会は、男性が女性と二人きりになったら必ずレイプするというどうしようもない世界ではないので問題にしていないけど。

この性的嫌がらせとプライヴァシー保護の兼ね合いはすごく難しい。現状は、教員と学生は互いに信頼できるものと考えて、プライヴァシー保護を優先させていると思う。一応、大学教員というのは理性的な人たちであり、学生も大学に入学してくるぐらいマトモな人間(逆恨みして狂言をしない)と考えているからだ。でも、引用した記事にあるとおり、年間数件は大学内での性的嫌がらせに関する報道があるので、悩ましいところ。

さらに悩ましいのは海外の国際会議に異性の学生が参加するとき。過保護かも知れないけど、その異性の学生が初めての海外旅行だったりしたとき、さすがに異国の地に一人で放り投げるわけにもいかず、かといって、二人きりという条件を崩すためだけに、余分な人間を渡航される費用があるわけでもなくという状態なので、異性の学生と二人っきりで国際会議に参加しに行くということはあり得ると思う。というか、私の所属研究室ではそうしている。私や教授が行けないときには、同じ会議に参加する上級生の男性をエスコート役として同じ日程、同じホテル、同じ飛行機で行動させている。

友達から、冗談半分で「役得だな」と言われるのだけど、正直言ってビクビクもの。だって、問題あったら余裕で懲戒処分にされちゃうもの。しかも、研究者人生が終わる。なので、私は超過保護にエスコートしている。具体的には、日本で予約できるものは全て予約し、夜遊びは許さない(まあ、そもそも私は海外の夜は怖いのでホテルの外には必要以上には出ないのですが)。比較的大都市の場合は、一人で出歩かせない(私が一緒についていく)ということをしている。一緒に行った学生には悪いけど、こっちは職がかかってるんで本当に真剣。

今、ほのかに不安に思っているのは女子学生と研究の進め方に関してトラブルに陥ってしまったときのこと。あまりにもこじれてしまって、性的嫌がらせを偽証されたとき、今のやり方だとそれを晴らすのがすごく難しい。かと言って、男子学生と女子学生への対応を露骨に変えるのもかえって逆差別になり得るし、本当に悩ましい。

そういう意味で、異性の学生に性的嫌がらせをする大学教員は本当に勘弁して欲しい。世間の風当たりや防衛意識が強くなりすぎると、研究指導に思いっきり支障をきたしてしまう。異性の学生と二人っきりになるたびに研究室のドアを開けるような事態が発生するのは本当に勘弁して欲しい。

まあ、研究室や教授室のドアをガラス張りにすればよいだけかも知れないけど。私はソフトウェア開発が主たる研究対象なので、ガラス張りでも全然問題ないけど、研究の分野によってはガラス張りじゃ困る分野もあるんだろうなぁ。たとえば、実験系の研究室とか実験装置自体も秘密事項だもんね。場合によっては何の論文を収集しているのかがばれても困るかも知れないしねぇ。

以上、結論はないけど一大学教員としてはこういう風に考えていますということで。