国語を学校で教えることに異存はないけど、内容には意見がある

その後キャリアを重ねるにつれ、「正しい国語を学べぬ限り、正しいコミュニケーションはできない。正しいコミュニケーションができなければ、社会人生活に支障をきたす。だから国語は重要な教科」ということを語るようになったという。

この意見には賛成するけれども、本当に国語の授業はそれを指向しているのかは疑問。と思い学習指導要領の国語を見てみたら案外まともなことが書いてあってビックリ。ついでに学習指導要領の目的をざっとみてみたけど何か変じゃない?

文部科学省:小学校学習指導要領(平成10年12月告示、15年12月一部改正)より、各教科の目標を抜粋。

  • 国語:国語を適切に表現し正確に理解する能力を育成し,伝え合う力を高めるとともに,思考力や想像力及び言語感覚を養い,国語に対する関心を深め国語を尊重する態度を育てる
  • 社会:社会生活についての理解を図り,我が国の国土と歴史に対する理解と愛情を育て,国際社会に生きる民主的,平和的な国家・社会の形成者として必要な公民的資質の基礎を養う。
  • 算数:数量や図形についての算数的活動を通して,基礎的な知識と技能を身に付け,日常の事象について見通しをもち筋道を立てて考える能力を育てるとともに,活動の楽しさや数理的な処理のよさに気付き,進んで生活に生かそうとする態度を育てる
  • 理科:自然に親しみ,見通しをもって観察,実験などを行い,問題解決の能力と自然を愛する心情を育てるとともに自然の事物・現象についての理解を図り,科学的な見方や考え方を養う。
  • 生活:具体的な活動や体験を通して,自分と身近な人々,社会及び自然とのかかわりに関心をもち,自分自身や自分の生活について考えさせるとともに,その過程において生活上必要な習慣や技能を身に付けさせ,自立への基礎を養う。
  • 音楽:表現及び鑑賞の活動を通して,音楽を愛好する心情と音楽に対する感性を育てるとともに,音楽活動の基礎的な能力を培い,豊かな情操を養う。
  • 図画工作:表現及び鑑賞の活動を通して,つくりだす喜びを味わうようにするとともに造形的な創造活動の基礎的な能力を育て,豊かな情操を養う。
  • 家庭:衣食住などに関する実践的・体験的な活動を通して,家庭生活への関心を高めるとともに日常生活に必要な基礎的な知識と技能を身に付け,家族の一員として生活を工夫しようとする実践的な態度を育てる。
  • 体育:心と体を一体としてとらえ,適切な運動の経験と健康・安全についての理解を通して,運動に親しむ資質や能力を育てるとともに,健康の保持増進と体力の向上を図り,楽しく明るい生活を営む態度を育てる

教育を通じて、被教育者の性格や感情をコントロールしようとういのはあまり好きじゃない。はっきりいって国語の目的は気持ち悪い。国語を学ぶ目的が「国語に対する関心を深め国語を尊重する態度を育てる」ためってどういうこと?「国語を尊重する態度」とは何じゃ?「日本語に対する関心を深め、日本語を尊重する態度を育てる」ならば、少しは理解できそうだけど、国語って。算数も気持ち悪いいったい何を「進んで生活に生かそうとする」の?活動の楽しさや数理のよさを気づいてもらえれば十分じゃない。理科と社会も「愛情」を持つかどうかは本人の勝手なんだから人の心情に踏み込もうとしなくてよいよ。国土と歴史に対する理解や自然に親しむことができれば、勝手に愛情は育つよ。音楽についても、日本じゃ音楽が嫌いな人間が育っちゃだめなの?体育は運動に親しむだけじゃダメなの?楽しく明るい生活を営まないとダメ?あと「心と体を一体としてとらえ」は今の世の中ではアウトな言い方だと思う。生活と図画工作、家庭のように「能力」を中心にした目標じゃまずいのかねぇ。

上記の点を別として、国語の指導要領で抜けているのは「自分の考えや主張について根拠を示しつつ説明する」こと。客観的に検証できる形での意見表明について学習指導要領では何も述べていない。

文部科学省:中学校学習指導要領も見てみる。

  • 国語:国語を適切に表現し正確に理解する能力を育成し,伝え合う力を高めるとともに,思考力や想像力を養い言語感覚を豊かにし,国語に対する認識を深め国語を尊重する態度を育てる。
  • 社会:広い視野に立って,社会に対する関心を高め,諸資料に基づいて多面的・多角的に考察し,我が国の国土と歴史に対する理解と愛情を深め,公民としての基礎的教養を培い,国際社会に生きる民主的,平和的な国家・社会の形成者として必要な公民的資質の基礎を養う。
  • 数学:数量,図形などに関する基礎的な概念や原理・法則の理解を深め,数学的な表現や処理の仕方を習得し,事象を数理的に考察する能力を高めるとともに,数学的活動の楽しさ,数学的な見方や考え方のよさを知り,それらを進んで活用する態度を育てる
  • 理科:自然に対する関心を高め,目的意識をもって観察,実験などを行い,科学的に調べる能力と態度を育てるとともに自然の事物・現象についての理解を深め,科学的な見方や考え方を養う。
  • 音楽:表現及び鑑賞の幅広い活動を通して,音楽を愛好する心情を育てるとともに,音楽に対する感性を豊かにし,音楽活動の基礎的な能力を伸ばし,豊かな情操を養う。
  • 美術:表現及び鑑賞の幅広い活動を通して,美術の創造活動の喜びを味わい美術を愛好する心情を育てるとともに,感性を豊かにし,美術の基礎的能力を伸ばし,豊かな情操を養う。
  • 体育:心と体を一体としてとらえ,運動や健康・安全についての理解と運動の合理的な実践を通して,積極的に運動に親しむ資質や能力を育てるとともに,健康の保持増進のための実践力の育成と体力の向上を図り,明るく豊かな生活を営む態度を育てる
  • 技術・家庭:生活に必要な基礎的な知識と技術の習得を通して,生活と技術とのかかわりについて理解を深め,進んで生活を工夫し創造する能力と実践的な態度を育てる。
  • 外国語:外国語を通じて,言語や文化に対する理解を深め,積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図り,聞くことや話すことなどの実践的コミュニケーション能力の基礎を養う。

理科がまともになった。「積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度」は別に外国語で学ばんでも。国語は相変わらず気持ち悪い。

文部科学省:高等学校学習指導要領(平成11年3月告示、14年5月、15年4月、15年12月一部改正) を見ると以下のとおり。

  • 国語:国語を適切に表現し的確に理解する能力を育成し,伝え合う力を高めるとともに,思考力を伸ばし心情を豊かにし,言語感覚を磨き,言語文化に対する関心を深め,国語を尊重してその向上を図る態度を育てる
  • 地理歴史:我が国及び世界の形成の歴史的過程と生活・文化の地域的特色についての理解と認識を深め,国際社会に主体的に生きる民主的,平和的な国家・社会の一員として必要な自覚と資質を養う。
  • 公民:広い視野に立って,現代の社会について主体的に考察させ,理解を深めさせるとともに,人間としての在り方生き方についての自覚を育て,民主的,平和的な国家・社会の有為な形成者として必要な公民としての資質を養う。
  • 数学:数学における基本的な概念や原理・法則の理解を深め,事象を数学的に考察し処理する能力を高め,数学的活動を通して創造性の基礎を培うとともに,数学的な見方や考え方のよさを認識し,それらを積極的に活用する態度を育てる
  • 自然に対する関心や探究心を高め,観察,実験などを行い,科学的に探究する能力と態度を育てるとともに自然の事物・現象についての理解を深め,科学的な自然観を育成する。
  • 保健体育:心と体を一体としてとらえ,健康・安全や運動についての理解と運動の合理的な実践を通して,生涯にわたって計画的に運動に親しむ資質や能力を育てるとともに,健康の保持増進のための実践力の育成と体力の向上を図り,明るく豊かで活力ある生活を営む態度を育てる
  • 芸術:芸術の幅広い活動を通して,生涯にわたり芸術を愛好する心情を育てるとともに,感性を高め,芸術の諸能力を伸ばし,豊かな情操を養う。
  • 外国語:外国語を通じて,言語や文化に対する理解を深め,積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図り,情報や相手の意向などを理解したり自分の考えなどを表現したりする実践的コミュニケーション能力を養う。
  • 家庭:人間の健全な発達と生活の営みを総合的にとらえ,家族・家庭の意義,家族・家庭と社会とのかかわりについて理解させるとともに,生活に必要な知識と技術を習得させ,男女が協力して家庭や地域の生活を創造する能力と実践的な態度を育てる。
  • 情報:情報及び情報技術を活用するための知識と技能の習得を通して,情報に関する科学的な見方や考え方を養うとともに,社会の中で情報及び情報技術が果たしている役割や影響を理解させ,情報化の進展に主体的に対応できる能力と態度を育てる。

国語はさらに気持ち悪さと意味不明さを増している。「その向上を図る態度を育てる」の「その」は、直前の「国語」を指しているとしか思えない。いろいろな力の向上を図るならば「それらの」としないと。地理歴史は改善した。公民は別の方向に一歩踏み出してしまっている「人間としての在り方生き方についての自覚を育て」って、哲学的過ぎる。高校生に人間としての在り方を求めるのはちょっと早いのでは。芸術は余計なお世話。家庭も新たな方向に一歩踏み出しているような。「家庭や地域の生活を創造する能力」って、生活は創造するもの?情報は無難。

話変わって、国語のおすすめ教材はちょっと欲張り過ぎだと思う。もっと、国語の能力を高めることに主眼をおいて選ぼうよ。特に対話や議論という点が根本的に欠けているよ。

  • 小学校
教材は,次のような観点に配慮して取り上げること。
ア  	   国語に対する関心を高め,国語を尊重する態度を育てるのに役立つこと。
イ 	   伝え合う力,思考力や想像力及び言語感覚を養うのに役立つこと。
ウ 	   公正かつ適切に判断する能力や態度を育てるのに役立つこと。
エ 	   科学的,論理的な見方や考え方をする態度を育て,視野を広げるのに役立つこと。
オ 	   生活を明るくし,強く正しく生きる意志を育てるのに役立つこと。
カ 	   生命を尊重し,他人を思いやる心を育てるのに役立つこと。
キ 	   自然を愛し,美しいものに感動する心を育てるのに役立つこと。
ク 	   我が国の文化と伝統に対する理解と愛情を育てるのに役立つこと。
ケ 	   日本人としての自覚をもって国を愛し,国家,社会の発展を願う態度を育てるのに役立つこと。
コ 	   世界の風土や文化などに理解をもち,国際協調の精神を養うのに役立つこと。
  • 中学校
教材は,次のような観点に配慮して取り上げること。
ア  	   国語に対する認識を深め,国語を尊重する態度を育てるのに役立つこと。
イ 	   伝え合う力,思考力や想像力を養い言語感覚を豊かにするのに役立つこと。
ウ 	   公正かつ適切に判断する能力や創造的精神を養うのに役立つこと。
エ 	   科学的,論理的な見方や考え方を養い,視野を広げるのに役立つこと。
オ 	   人生について考えを深め,豊かな人間性を養い,たくましく生きる意志を育てるのに役立つこと。
カ 	   人間,社会,自然などについての考えを深めるのに役立つこと。
キ 	   我が国の文化と伝統に対する関心や理解を深め,それらを尊重する態度を育てるのに役立つこと。
ク 	   広い視野から国際理解を深め,日本人としての自覚をもち,国際協調の精神を養うのに役立つこと。
  • 高校
教材は,次のような観点に配慮して取り上げること。
(ア) 	   言語文化に対する関心や理解を深め,国語を尊重する態度を育てるのに役立つこと。
(イ) 	   日常の言葉遣いなど言語生活に関心をもち,伝え合う力を高めるのに役立つこと。
(ウ) 	   思考力を伸ばし心情を豊かにし,言語感覚を磨くのに役立つこと。
(エ) 	   情報を活用して,公正かつ適切に判断する能力や創造的精神を養うのに役立つこと。
(オ) 	   科学的,論理的な見方や考え方を養い,視野を広げるのに役立つこと。
(カ) 	   生活や人生について考えを深め,人間性を豊かにし,たくましく生きる意志を培うのに役立つこと。
(キ) 	   人間,社会,自然などに広く目を向け,考えを深めるのに役立つこと。
(ク) 	   我が国の文化と伝統に対する関心や理解を深め,それらを尊重する態度を育てるのに役立つこと。
(ケ) 	   広い視野から国際理解を深め,日本人としての自覚をもち,国際協調の精神を高めるのに役立つこと。

国語では言語技術をとにかく習得するようにしてもらいたい。言語習得技術については過去のエントリーを参照されたし。

文学鑑賞についても、正解とされている解釈を当てる授業にするのではなく、根拠を示しつつ、自分の解釈を説明する授業にするべきだ。

一つの作品は確かにある作家が書いたものであり、その作家の生きた時代や環境の影響を大いに受けていますが、読者はそれらに配慮しつつも、作家になりきって作品を読む必要はないのです。読者は読者がその作品を読む「現在」の視座から自分なりに作品を解釈します。ただし、解釈には責任が伴います。その責任を、読者はテキストの中に根拠を見つけて提示するという形で果たすのです。
(三森 ゆりか:外国語で発想するための日本語レッスン)

国語がすべての基礎であることには異存はないので、ぜひ、内容を今風に改めて欲しい。「国語に対する関心を深め国語を尊重する態度を育てる」というようなわけの分からない教育は止めてほしい。

追記

はてなブックマーク - 国語を学校で教えることに異存はないけど、内容には意見がある - 発声練習で、id:Trouさんのコメントでご指摘いただいた。

2008年11月18日 Trou PISA以降の三森ゆりかなどの影響を考えると、新学習指導要領を読まれた方がおもしろいと思います(気持ち悪さもUP)。「自分の考えや主張について根拠を示しつつ説明する」は現行でも中学校にすでにあります。

私が読んだのは現行の学習指導要領で、新学習指導要領というのができているらしい。

  • 「生きる力」
    • 基礎・基本を確実に身に付け、いかに社会が変化しようと、自ら課題を見つけ、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力
    • 自らを律しつつ、他人とともに協調し、他人を思いやる心や感動する心などの豊かな人間性
    • たくましく生きるための健康や体力 など
  • 学習指導要領改訂のポイント
    • 改正教育基本法等を踏まえた学習指導要領改訂
    • 「生きる力」という理念の共有
    • 基礎的・基本的な知識・技能の習得
    • 思考力・判断力・表現力等の育成
    • 確かな学力を確立するために必要な時間の確保
    • 学習意欲の向上や学習習慣の確立
    • 豊かな心や健やかな体の育成のための指導の充実

確かに気持ち悪さがUPしている。「生きる力」という理念の共有ってする必要があるの?誰と誰が理念を共有するの?そもそも、生きる力の定義に「など」をいれたら理念の共有なんてできないでしょうに。その他のポイントは別に異議なし。

あと、言語力育成協力者会議 委員名簿に「三森 ゆりか つくば言語技術教育研究所長」が入っている。今って、実は国語教育改善前夜だったりするの?

第1回会議の三森さんの資料。三森さんの主張と問題意識がわかる。

会議の成果。このとおりにできたら日本の研究力は大幅にアップし、研究指導がすごく楽になりそうな予感がひしひしする。理科離れもこれでかなり緩和するのでは?

で、新学習指導要領の国語の目的

  • 小学校:国語を適切に表現し正確に理解する能力を育成し,伝え合う力を高めるとともに,思考力や想像力及び言語感覚を養い,国語に対する関心を深め国語を尊重する態度を育てる
  • 中学校:国語を適切に表現し正確に理解する能力を育成し,伝え合う力を高めるとともに,思考力や想像力を養い言語感覚を豊かにし,国語に対する認識を深め国語を尊重する態度を育てる

いろいろと上記の言語力育成協力者会議の意見が反映されていて良いのだけど、なぜ「言語感覚」という言葉を使った!!!三森さんの「言語技術」が一番よいけど、「言語力」で良いじゃない!「技術」は学ぶことができるある程度客観的なものであるから、万人が習得可能。「〜力」は基本的には生来のものだけど、技術を学んで後天的に伸ばすことも可能。そして、「感覚」は、個々人によって違うことが前提の主観的なものじゃないか!感覚は磨くものだけど、身につけるものじゃないんだよ!何で、言葉がもっとも重要視される国語という教科においてこういう単語の選択をしてしまうかなぁ。相変わらず「国語に対する認識を深め国語を尊重する態度を育てる」と気持ち悪い主張してるし。残念。

まあ、ともかくとして言語力育成協力者会議 :(第1回)配付資料 :三森委員説明資料1にあるように緊急に言語技術教育を実施できる人材、およびカリキュラムの整備が必要。別にこれは今の国語教員を馘にしろというわけではなく、再教育をすればよい。高等教育への予算を減らしている場合じゃないですよ。

1.6 言語技術教育の実施に当たって早急に必要なもの
(1) 	教員養成のための大学院
  	現在、言語技術を指導できる教員は皆無に近いため、可及的速やかに指導できる教員を養成する必要がある。言語技術は社会との繋がりが深いため、一度社会経験があり、言葉の技術の必要性を十分に認識している人物の方が教員に適している
(2) 	カリキュラム
  	幼児から高校まで、各発達段階を考慮した系統的な指導体系
現在は、現場の教員が各自の思いつきで言語教育を実施している状況のため、教員同士の連携、学年をこえた連携、学校をこえた連携が見られない状況。
(3) 	教科書と教材
  	指導体系に基づいた教科書と教材の作成
  	
1 	言語技術1年生〜高校3年生まで
2 	文学
  	
・ 	厳選した詩や小説だけを掲載するのではなく、青少年に読ませたい多くの詩や物語・小説を1冊の本の中に納め、教員が扱う教材を自主選択できるようにする
・ 	例えば、小学校低学年用・中学年用・高学年用・中学生用・高校生用
  	
* 	ただし翻訳されたものは言語技術的要素(原稿用紙の使い方に則った正書法・段落など)
を無視して訳されたものが多いため、原書との照らし合わせが必要。
特に児童書の翻訳は粗雑な物が多い