属人性が強い職業における女性支援の良い例題として

女性研究者の支援にこのようなポイントがあるとは気がつかなかった。

では、このように支援が必要なほど、女性研究者が仕事を続けにくいのはなぜか。
よく言われるのは、研究者として論文をたくさん書かなければいけないのが30代であり、出産・育児の忙しさのピークと重なる、ということだ。
だが、仕事と出産・育児の時期が重なるのは研究者に限ったことではない。他の仕事に就いている女性たちも、これにはさんざん苦労してきている。最近では、出産や育児の際は意図的に仕事をスローダウンし、その後復帰してリカバリーするというように、計画的なキャリアプランを実行する女性が、少しずつだが増えている。それを支える雇用環境が徐々に整い、周囲の理解も以前よりは進んできた成果だろう。
ところが女性研究者の場合はなかなかそうできず、研究を継続する女性の数は低迷しているのはなぜなのか。それを考えるには、根底にある研究職特有の困難さに目を向ける必要がある。つまり、研究という仕事が持つ強い属人性と創造性である。
研究とは、自分の手で仮説と検証を繰り返し、その中から自分の眼で新たな発見をし、自分の頭で独自の理論を組み立てていく創造的なプロセスだ。他の人に代わってもらうことが難しい、孤独で根気のいる仕事である。よく「偶然発見した現象からノーベル賞が生まれた」といった話を聞くが、それまでのプロセスを自分でやったからこそ、他の人ならば見過ごしてしまう現象を「偶然」発見するのであって、ノーベル賞クラスでなくても、研究とはそもそもそういう「余人をもって代えがたい」仕事なのである。
例えば長時間にわたる実験をしている時、保育園のお迎えの時間だからといって実験を人任せにして帰ったら、貴重な現象を見逃すかもしれない。かといって中断するわけにもいかない。ひとたび中断したら、翌日また一から実験をやり直さなければならないからだ。こうした板ばさみの中で、女性研究者たちは日々悩み、心身をすり減らしながら働いている。プロセスを標準化して省力化しようといったエンジニアリング手法は通用しない。自分にしかできない創造的な仕事、という誇りと自負が皮肉にも逆に足を引っ張るところに、この問題の難しさがある。
こういった女性研究者たちの苦労を少しでも軽減し、研究に専念できる時間を確保すれば、より良い研究成果が出るだろう。特に日本をリードする7大学が率先すれば、それが科学技術や学術分野における進歩につながり、ひいては科学技術創造立国を標榜する日本の国際競争力を高めることにもなる。その点に女性研究者を支援する必要があり、意義がある。

「別に女性研究者だけが不幸なんじゃない。もっと不幸な女性はたくさんいるけど、みんなちゃんとやっているので、この人たちの頑張りが足りんのじゃないの?」なんてネガティブな意見ではなく、属人性が強い職業における女性支援(女性と特化するのがダメならば、子育て、家庭生活維持支援として)における良い例題(典型例)として、解決できるようになればよいのではないかと思う。

たとえば、こちらのsachi先生は現在進行形で子育てと研究室運営をされていて、かつ、ブログにその状況も書いてくださっている。科研費提出あたりの話は痛々しかった。

「好きなことやっているんだから苦しいことがあるのはあたりまえでしょ」という意見もあり、正しいとは思うがあくまでも程度問題で「好きなことをする=苦しい」になったら、好きなことをする人はいなくなり、嫌な暗い社会になってしまうので、あくまでも「好きなことをする、かつ、ときどき苦しい」ぐらいの社会で生きていきたい。