IT人材市場動向予備調査報告書

会議の中で話題になった一つに情報処理推進機構(IPA)が最近実施した「IT人材市場動向予備調査」の結果がある。これは、IT企業などに対してアンケート調査を行い、現状におけるIT技術者の偏在状況を調査し、IT技術者の過不足とオフショアの状況を報告したものだ。

この中に、「産学連携の状況−大学教育に期待するもの」という項があり、「大学教育に期待する教育内容」に関するIT企業の回答結果と、同様の選択肢の設問を、「重視している教育」として大学側に尋ねた設問の結果の比較がある。(IT人材市場動向予備調査報告書抜粋版35ページ)

企業側の期待は大きいものから、「システム・ソフトウェア設計」「文書作成能力・文章力」「チームワーク」「プログラミング技術」「リーダーシップ」「プレゼンテーション」「ソフトウェア工学」と並んでいる。

一方で、大学側の重視している教育は、「プログラミング技術」「計算機科学」「通信・ネットワーク」「情報数理科学」「プレゼンテーション」「ソフトウェア工学」「システム・ソフトウェア設計」の順だ。確かに大きなギャップがあるといえる。委員の間でも、大きな差だという意見が出た。

しかしよく考えると、大学のITの専門教育においてなぜ「文書作成能力・文章力」「チームワーク」「リーダーシップ」などを主要教科として教育しなければならないのだろうか? 新入社員のこのような能力不足に企業が困っているのは事実であるが、これらの能力はむしろ大学に入学するまでに身につけるべきものであり、いわゆる国語力の教育をおざなりにした初等中等教育のツケともいえるのではなかろうか。このような能力が不足しているので、大学でのIT専門科目の教育に支障が出ているともいえる。

IPAが実施した IT人材市場動向予備調査報告書

現在、IT技術に関するわが国の大学・大学院教育は、諸外国と異なり、企業の求めるニーズと大きなギャップがある。例えば、情報工学について、米国の大学では、学部教育は企業実務に直結するエンジニアリングに徹し、学問的な科学領域については、大学院以後に実施される。一方、わが国の大学教育は、学問的なコンピュータ科学に徹し、実務的な分野は就業後、一からやり直すことになる。そのため、わが国の大学・大学院新卒者の質は、企業が求めるものとは大きな差が生じている。