技能訓練ではなく体験としてのプログラミング

辰己丈夫の研究雑報: 情報教育の音楽化(第2期)詳報

また、職業訓練のためのプログラミングとしてやっているつもりもありません。初等中等教育では、料理の体験も、方程式を解く体験も、歴史をたどる経験も必要で、それと同じようにプログラミングをする体験も必要だと思っていますが、それが直接生徒たちの能力に役に立つ必要はないと思います。もちろん、間接的には役に立って欲しいと思いますが、生徒に日本地理を学んでもらうのは「日本中どこにいっても道に迷わないためだ」なんてナンセンスですよね。そんな直接的なことばかり教えてしまうとバージョンアップに耐えられない硬直的な知識(道が変わったら目的地にたどり着けないような人)ばかり教えることになります。それは逆効果です。

おっしゃるとおり。必ず役に立つから教えるのではなく、将来それらの知識や技能が必要になったときに最初の一歩を踏み出せるため、あるいは将来それらの知識や技能が必要かどうかを判断するための基礎知識として、小・中・高では幅広く勉強させるべきだと思う。

特に否応なしに情報化が進んでいる現在において、「コンピュータやソフトウェアは決して正しくない答えを出力しない」という間違った通念を破るためには、プログラミングを体験し、間違ったプログラムを作れば、あるいは正しくない入力をすれば、コンピュータやソフトウェアは正しくない答えを出すことがあるということを実感した方がよい。

情報処理学会も2005年度に出した提言「日本の情報教育・情報処理教育に関する提言2005(2006.11改訂/追補版)」で以下のように言っている。

すべての国民が「情報処理の仕組み」を、体験を通じて理解し、それに基づいてICTを有効に活用できる能力を備えるようにする。

理解まで必要はないけれども、体験して実感しておく必要はあると思う。一度実感しておけば、注意を払うようになる。酸っぱいカレーを食べて、お腹を下したことがあれば、以後は酸っぱいカレーを食べなくなるように。