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日本語による言語技術習得

今年度中に改定が予定される小中高校の学習指導要領について、中央教育審議会文部科学相の諮問機関)は16日、基本方針を「ゆとり教育」から「確かな学力の向上」に転換した上で、自分の考えを文章や言葉で表現する「言語力」を全教科で育成していく方針を固めた。

国際学力調査で低下していることが明らかになった文章表現力や思考力を向上させる狙いがある。中教審は今後、各教科ごとに言語力の具体的な育成方策をまとめる方針だ。

〜中略〜

経済協力開発機構OECD)が2003年に行った国際学習到達度調査(PISA)では、文章表現力や思考力を測る「読解力」の順位が、日本は8位から14位に下落した。

〜後略〜

〜前略〜

まぁ結構なことだと思うが、逆に今頃なんでこんなことに「改善の余地」があるのかが不思議だ。

今、高校生向けのキャリア教育のプランを考えているところですが、全6クラスで3時間を埋めなくてはいけない、という条件なのでNPO側からは人が出せない。(すでに他の計画が入っている)

そこで、教材を提供するか?となって、職業について書かれた本を生徒に読ませて、それを元に自分や他人、生き方について考えるといった授業を先生にやってもらう、と考えました。
そこで、出てきたのが「感想を書かせるではダメだ」なんですね。

感想書かせると「面白かった」とかが終わる生徒が過半数です。どこが面白かったのかも書かない。まして、なぜ面白かったのかを発表できるのは10〜15人に一人ぐらいです。

文章で算数の問題を出すと、途端に回答が大混乱になる、といった報告があります。これに対して、計算式を直接解かせるような問題だと、昔と大差ない。
〜後略〜

〜前略〜

酔うぞさんと同意見になるんだが、「体験学習で感じたことを作文にまとめ」るんじゃダメだろう。まずは、「体験学習で何をやったか他人にわかるように説明する作文を書く」でないと。何を感じたかを考えて掘り下げられるようになるのはもうちょっと大きくなってからではないか。予備知識も経験も足りない年齢だと、知らないことを知ること自体が面白いのであって、内容の評価はひとまずどうでもいいような……。

〜後略〜

まさに酔うぞさんやapjさんの提示している問題点に関する本を読んでいた。

一つ目の本は、主に欧米でおこなわれている「テクストの分析と解釈・批判」について説明している。前半で、三森さんが「テクストの分析と解釈・批判」がなぜ重要だと思ったのかが三森さんの経験を通して説明されている。後半は、「テクストの分析と解釈・批判」の第一歩としての「絵の分析と解釈・批判」のやり方と具体例。次に「テクストの分析と解釈・批判」のやり方と具体例が紹介されている。

二つ目の本は、欧米の言語を用いてコミュニケーションを行えるようになるためには、日本語における思考法や説明の仕方を欧米のコミュニケーション法(言語技術)に近づける必要があるという主張とそれを行うための言語技術の基本訓練に関して紹介している。まず、日本語と欧米の言語(主にドイツ語と英語)の特性の違い。この言語の違いに由来するコミュニケーション法の違いを説明し、その後、欧米の言語を用いてコミュニケーションするための技術である言語技術に関して説明をしている。さらに、この言語技術を身につけるための第一歩として、欧米の言語に翻訳しやすい日本語の文章である「中間日本語による文章」をどうやって作るか、対話をおこなうための訓練である「問答トレーニング」、そして、説明を行うための技法を具体例を挙げつつ紹介している。

三森さんはこの2冊の本を通して、「欧米の言語の単語や文法を充分に学んでいても、その言語の話者とは議論できない、あるいはそもそもコミュニケーションできない」という自体が発生してしまう原因は、

  • 日本語と欧米の言語の違いに由来するコミュニケーション法の違いが存在する。日本は「相手が発したあいまいな言葉から相手の意図を察すること」がコミュニケーションで重視され、欧米では「自分の主張や感想を明確に言語化し、相手に伝えること」がコミュニケーションで重視される。
  • しかも、欧米では「自分の主張や感想を明確に言語化し、相手に伝える」というコミュニケーション法が言語技術として各国で教えられている
  • また、相手が発信した事柄(言ったこと、書いたこと、描いたこと)をどう読み取るかという技術である「テクストの分析と解釈・批判」も欧米では共通技術として各国で教えられている
  • 一方で、日本ではこの二つの技術が両方とも教えられていない

という点にあるのだから、日本人もこの言語技術と「テクストの分析と解釈・批判」を身につければ、欧米の言語の話者とコミュニケーションをとれるようになると主張している。

酔うぞさんの

感想書かせると「面白かった」とかが終わる生徒が過半数です。どこが面白かったのかも書かない。

というのは、日本は「相手が発したあいまいな言葉から相手の意図を察すること」がコミュニケーションで重視されているため、基本的に相手の意図を察することができなかったときでも、相手の意図を明確にするために質問することは良いこととされない傾向があり、そのため、理由を追求される経験がないために上記の例のように「面白かった」で終わってしまう生徒が多いのではないかと考えられる(「外国語を身につけるための日本語レッスン」の方に同じような例がいくつも紹介されている)。

それで、この日本語ベースコミュニケーションの特性に由来する「理由を説明しない」という癖が高校生以降も残ってしまう理由が、apjさんが指摘されている

「体験学習で感じたことを作文にまとめ」るんじゃダメだろう。まずは、「体験学習で何をやったか他人にわかるように説明する作文を書く」でないと。

という、今現在、日本の初等教育では「体験学習で何をやったか他人にわかるように説明する作文を書く」というような説明する技術が教えられていないということだろうと思われる。一方で、「外国語を身につけるための日本語レッスン」によれば、欧米では初等教育から行われる言語教育の一環として説明する技術も含まれているとのこと。

ちなみに「外国語を身につけるための日本語レッスン」のこの部分で面白かったのは「道案内」の方法が学校で教えられているという話。

「外国語を身につけるための日本語レッスン」p.195より

一般的に欧米人は「道案内」が上手です。欧米の町の通りには名前が付いていて、通りに名前のない日本の町における道案内よりも案内がたやすい、という点も理由のひとつかもしれません。しかしそれよりも、多くの欧米人が学校で技術として「道案内」の方法を学んでいる、という点の方が、かれらが道案内に巧みなことを説明する理由として相応しいでしょう。

それで、中央審議会が気にしている

経済協力開発機構OECD)が2003年に行った国際学習到達度調査(PISA)では、文章表現力や思考力を測る「読解力」の順位が、日本は8位から14位に下落した。

について、三森さんは「外国語で発想するための日本語レッスン」のあとがきでこのように言っている(p.217より)

2004年に、2003年に実施された学習到達度試験(PISA)の結果が報道され、日本の15歳の子どもたちの読解能力低下が社会問題になりました。メディアがこぞって学力低下を指摘し、世の中は大騒ぎになりましたが、私は平静でした。学習到達度試験の試験結果は、日本の子どもの学力低下を示すものではなく、日本の子どもが何を学んでいないかを示す結果に過ぎないと、私は自分自身の経験から明言できたからです。日本の子どもの示した結果は、まさに私自身が15歳の折にドイツで経験した結果と一致していました。学習到達度試験の問題で求められていたものは次のようなものです。

1. 文章や図、表から情報を分析し、読み解く力
2. 文章を批判的に分析する力
3. 1と2によって考えたことがらを、データを引用しながら記述する力

これらは一般的に日本の国語教育の中では指導されていません。だからこそ私もドイツの学校で苦労したわけですし、その状況は現在でも変わっていないのです。学習到達度試験の結果はただそれだけを示したに過ぎませんでした。

〜後略〜

以上より、「自分の考えを文章や言葉で表現する「言語力」を高める」ための具体的な方法は、欧米にならい日本でも日本語による「言語技術」と「テクストの分析と解釈・批判」を国語の時間に行えばよいのではないかと思う。

また、科学は、基本的に欧米の言語の下で磨かれてきたものなのだから、「言語技術」と「テクストの分析と解釈・批判」を学んでおけば、科学的に思考できるようになりやすいと思われるし、科学的思考の基礎となる論理的な文章も書けるようになると思う。さらに、研究者や技術者は、英語の論文や技術書を読まなければならないし、場合によっては英語で論文や報告書を書かなければならない。よって、日本が科学立国をしたいのであれば、どう考えても初等教育から日本語による「言語技術」と「テクストの分析と解釈・批判」を行っておくべきであると思う。

一方で、既に大学に来てしまっている学生、研究室に配属されてしまっている学部生・大学院生、そして、大学院すら卒業してしまった私は、当然のことながら「言語技術」と「テクストの分析と解釈・批判」をちゃんとしたカリキュラムの下で学ぶことはなかったわけですが、これらを習得するにはどうしたもんでしょうかね。

とりあえず、そういう技術が存在するということとそれの入り口となる練習方法は三森さんの本を読んでわかったのたのだが。わかっただけでどうやって実践すればよいのかはわからない。三森さんのワークショップに参加したい。

以下、ご参考まで。