葉 千栄のNIPPONぶった斬り:海外メディアが見たニッポン政治

BS朝日で放送していた葉 千栄のNIPPONぶった斬りの「海外メディアが見たニッポン政治」を見た。内容は多岐にわたっていたが大まかな内容は以下の3点だったと思う。

  • 海外メディアから見た今度の参議院
  • 海外での報道から見た日本のイメージ
  • 内向きな日本

海外メディアから見た今度の参議院

今回のメンバーは以下のとおり。

  • 葉 千栄
  • マリ・クリスティーヌ   (異文化コミュニケーター)
  • アンドリュー・ホルバート(元LAタイムズ東京特派員)
  • 符 祝慧   (シンガポール「聯合早報」日本特派員)
  • 竹田圭吾  (「ニューズウィーク日本版」編集長)

基本的にはホルバートさんが多くをしゃべり議論を進めている感じ。全般的なテーマが日本人批判っぽくなっていたので、竹田さんが終始いたたまれなさそうだった。

この本来はメイントピックであった「海外メディアから見た今度の参議院戦」では、海外メディアは基本的に興味がないので報道しないということで10分で瞬殺されてしまうという面白展開に。

竹田さんが発言し、残りの4人も基本的に同意した内容が
自民党が勝とうが、民主党が勝とうが、アメリカから見た日本の姿勢に大幅な変換があるとは思えない。」
すぐにだったか番組中盤だったか忘れたがホルバートさんと葉さんが畳み掛けるように言った言葉
「日本人は日本で政権交代が起こったら世界的な大事件として扱われるだろうと思っていると思うが、実際は海外メディアはほとんど気にしないと思う」
という流れにびっくり。頭をシャッフルされた感じ。そういえば、そうだ。

アメリカや西欧は報道される量と私自身の知識の量がある程度あるので、政権交代などに対してある程度の感慨や感想を抱くが、報道される量が非常に少なく、かつ、私自身の知識も少ない東南アジア、南アジア、アフリカ全般、中欧、東欧、旧ソ連の国々(ロシアを除く)、中央アジア中南米などで政権交代が起こっても、多分私はさっぱり気にしない。

マリさんの一言
「政治の話題は気にしないが、経済の話題、たとえばどこかの会社が倒産したなどの方をむしろ海外メディアは気にしている」

海外での報道から見た日本のイメージ

ホルバートさんが熱く語っていた。要旨はだいたいこんな感じ。
従軍慰安婦問題や靖国問題などが海外で重要な問題として扱われるとき、それを政府が放っておくとその国にとっての日本のイメージが一時的に非常に悪くなる。これが何か重要な事柄が起こっているタイミング(たとえば、北朝鮮問題に対して協力を求める際など)に起こると、イメージの問題が重要な事柄への対処に響いてきてしまう。現在は、メディアの時代なのだから、世界の国々における日本のイメージを良いものに保つように常に努力する必要がある。」

日本人の立場からすると、従軍慰安婦問題はどこまでやれば終わりが見えるのかがわからない気がするので、アメリカ議会での従軍慰安婦問題に対する決議案を例としてホルバートさんの説を展開するのは、ちょっと腹立たしかったが、基本的な主張には賛成。黙っていても話題にして褒めてくれるのは美人や美男子(観光資源が豊富、各種資源が豊富な国)だけ、日本みたいに気立てしか良いところがない国は適宜アピールしないと忘れられちゃう。しかも、数年前まで不良で暴れまわっていたというならばなおさら。

符さんからは「靖国問題に対する対処」、マリさんから「従軍慰安婦問題から見る日本の女性の人権問題」があわせて提示されており、ホルバートさんの総括の
「これらの問題が次の参議院戦において、日本国民が考慮する項目としての優先順位は圧倒的に低い。そもそも考慮する項目として入っていないのではないか?」
というのが面白かった。そういえばそうだ。

マリさんが言っていた「日本の女性の権利は発展途上国以下だが、経済的に豊かなので日本の女性は権利獲得のために戦う必要を感じていない」と言っていたがそれは面白い問題提起だった。銀河英雄伝説の最良の独裁政治と最悪の民主主義のどちらを我々は守るべきか?志向すべきか?という問いに近い。衣食住が足りた奴隷と貧困にあえぐ自由民、我々はどちらを多くするべきか、そして志向すべきか?マリさん曰く「権利を認めさせる途中において、失敗し、ときには後退し、傷だらけになることもある。しかし、日本はそもそもその段階にすら達していない。」全面的に賛成。失敗を許さない雰囲気の中で新たに何かが確立されることはない。リスクを許さない、失敗を許さない姿勢こそが一番まずいところかも。

日本のニュースが海外で報道されない件について、ホルバートさんから
「メディアの財政状況悪化に伴い、紙面縮小、読者拡大により大衆受けするニュースしか伝えられないようになっている。」
とのこと。葉さん補足では、日本の状況も同じであろうとのこと。

内向きな日本

基本的に中国の現状が日本に正確に伝えられていないと憤る葉さんが中心となってこの話題がヒートアップ。でも、マリさん、符さん、ホルバートさん、竹田さんも同調。いろいろと興味深い話が多かったが要点は

  • 海外メディアで報道されていることがそもそも報道されていない
    • たとえば、南アジアに関する報道がほぼ0
  • 海外メディアで報道されていることも日本に都合がよいような解釈の下報道されている
    • たとえば、先のシンガポールで行われたアジア安全保障会議でアメリカと中国の間の会見で「中台事変が発生したときにはアメリカは介入しない」という発言があったそうだが、日本では「アメリカ、中国の軍事活動に釘をさす」みたいな感じで報道されたらしい
  • 日本は下り坂にあるのにそれを直視できていない
    • 麻生大臣の「とてつもない日本」や「日本のもの作りはすごい」というような「日本の**はすごい」という発言が注目を集めているがこれは基本的に癒しの発言である
    • 最近の中国食品の安全性に対する報道、中国経済はバブルであるというような中国崩壊論なども、「中国はまだまだこんなに欠点がある」ということをアピールしている発言である
  • 歴史を見ると「愛国心」を主張し始めるのは没落の兆し
  • 参議院戦で外交問題、海外に影響ある問題の優先順位が非常に低い
    • 年金問題が騒がれているが、今後の日本の発展を考えると移民受け入れを考えざるを得ないはずなのに、俎上にあがってもいない
    • 拉致問題も基本的に国内問題であり、エネルギー外交なども俎上に上がっていない

日本人たる自分にとって「日本は下り坂である」という認識は腹立たしいし、気が滅入るものであるけれども、基本的に同意。中国の歴史やヨーロッパの歴史を見る限りでは、多くの国は「軍事的発展」→「経済的発展」→「文化的発展」→「滅亡」というのが筋。日本は軍事的発展は失敗したが、何の因果か経済的発展はみごとに行え、今やポップカルチャーが海外でも受け入れられた。すなわち、文化がメインになったということ。次の順番は滅亡と少なくとも18世紀ぐらいまでの中国とヨーロッパの歴史は語ってくれている。なので、日本が下り坂なのは間違いない。悔しいけど。

マリさんの発言は番組全体を通して、私にとってはいらただしかったのだけれども(女性の権利向上を主張→男性が女性を抑圧しているという主張の裏返し→私は男性なので女性を抑圧していることになっちゃう。日本人は海外を見ていない→私も日本人なので海外を見ていないと非難されている気になる。実際見てないけど)、日本人の性質を説明したところには感動した。マリさんはよく日本人を理解している。長くて、素晴らしいので私解釈の文章は不正確になるから書かないけど。

ホルバートさんの「日本人は内向き、みなさんのうち何人が英語を話せて、英語版ニューズウィークを読めますか?」という発言は、ちょっと違うんじゃないのと思った。たまたま、歴史的経緯で英語が世界の第一言語という位置を占めているが、それはたまたまだろう?なんで、人口一億人の市場があり、日本語だけで経済が回る国に住んでいるのに、英語が話せないことを非難されないといけないんだ?アメリカ人は全員スペイン語や中国語話せるのか?といいたい。英語ができたほうが情報収集能力が上がるので好ましいことは好ましいが、それを強制してくるのは余計なお世話。

視聴のまとめ

葉さんが中国人なので、思考様式、背景、日常的に接する知識が私と違う。そのため、この番組は私にとってちょっとしたことが驚きにつながる。葉さんが中国が力強く成長していることを例を挙げて主張するたびに、その情報を初めて知る私は、そんな見かたがあったのかと驚いてしまう。

今回は特に最後の締めを除き、日本批判が中心だった。これでは言葉が強すぎて正しい表現ではないのであれば、現在の日本の駄目な点を列挙していた。私自身が日本人であるため、私は日本批判や日本のここが駄目だという指摘を私自身への指摘と受け取ってしまい、反発を覚えることが多い。自分がやってもいないこと、思っていもいないことについて批判されているような感じを受ける。(ちなみに男性批判、大学批判、研究者批判などでも同様にに反発を感じる)。しかし、こういう日本の見かたやとらえ方があったのかという感覚の方が終始強かった。こういうように感じられたのも今回のメンバーが基本的に日本が好きで、丁寧に落ち着いていろいろと話していたからだと思う。非常に面白い番組だった。

それにしても、テレビ朝日はこういう番組を作る能力があるのにどうして地上波だとああいう番組ばかりつくるんだろう?報道ステーションよりもこっちの方がよっぽどいろいろと考えるきっかけをくれるので面白いのに。葉さんの典型的な中国の方の日本語を聞いているだけでも面白いのに。「ありかとうございたった」