何をクリアしていると卒業にたる能力と認められるのか?

毎日新聞から引用

、大学教育の質を高めるため、大学卒業に当たって学生に一定水準の学力が身についているかどうかを外部から評価する「卒業認定試験」の導入を検討することを決めた。

学校を信用しないのは別にかまわないけれども、それを国策として行なおうとするのはどうなんだろう?入り口が厳しく、出口が甘いというのが問題なのであればこんな試験をわざわざ用意する必要はなく、以下の施策をとればすぐに出口は厳しくなる

  • 文部科学省が留年率に対するマイナス評価を止める。具体的には運営金の配布にペナルティをつけないようにする
  • 新卒制度を止める。現在の新卒求人募集には「卒業後*年」というしばりではなく「昭和*年生まれ以降」という年齢の縛りがある。具体的には学部ならば24歳。修士ならば26歳。すなわち一浪一留の以内。公務員すら30歳を過ぎると新規採用では入れなくなる(人事院:国家公務員試験情報を参照)。

大学が学生を留年させられない理由のほとんどは、上記2つのプレッシャーから来る。大学としてはただでさえ厳しい予算が減るのは避けたい。また、学生や親御さんの立場にたてば、自分が単位を出さないことで学生の人生が狂ってしまうことがあり得ると思えばそれほど厳しくできない。

認定試験をやるといっている反面、就職率も大学の責任になりつつある。

まあ、どういう進路を選ぼうが学生の自由だが、就職しませんと自ら意志決定する学生が居ることで、就職率が下がったとか、大学評価に影響するといったことになるのは困る。学生が進路をどうするかは自己責任だし、学生が意志決定したことは、あくまでも学生が結果を引き受ける範囲だけで閉じていないとまずい。教員側にできるのは、就職活動の足を引っ張らないようにゼミや実験のスケジュールをするとか、情報を得る手助けをするとか、必要な推薦状などを発行するといったことだけである。大学評価に影響するからといって、就職や進学を強要したら人権問題発生である。つまり、教員側の手出しは不可能ということであり、大学に対する評価基準が、手出し不可能なことの結果責任を問うものになっている、あるいは結果をだすために人権侵害せよということを暗に含んでいるのであれば、それは評価基準の欠陥に他ならない。

事象の地平線のapjさんに全く持って同意する。学生の側からしてみても、自分が就職しないと決めたことに対して大学がなんじゃらかんじゃら言ってきたら良い迷惑。ただでさえ、親や周囲からそんなこと言われてるんだから。

それじゃ、そもそも留年もせず就職も安全と予想される優秀な学生(実際にの話ではなく一般に「優秀」と思われる性質を有しているという意味)だけを厳選してとろうとするとどうなるか?それも許されていない。定員を充足しないとペナルティがあるからだ。

定員超過の原因は、定員の充足率が悪いとペナルティがあることと、多様な入試&多数回のチャンスを受験生に与えろという文部科学省の方針が原因なわけだが。

事前に明確な合格基準を示した場合は、設定した、つまり要求した基準以下の方は全部落としても構わない、言い換えれば定員割れしても構わないと文部科学省が明言すれば良いんです。
定員割れでも運営費交付金を減額しないと...

合格判定会議に立ち会ったこともありますが、先生たちだって、特に後期試験で追加合格するなんて嫌なんですよ。合格者のレベルが低いから...
定員を切ってもダメ、超過してもダメじゃ...相対評価じゃ合格者のレベルが保てませんよ。

以上が前提。本題として、何を基準として卒業にいたる能力と判断するのか?はそんな簡単な話ではない。これは事実上大学においても教科書をつくる動きに等しい。だって、認定試験に合格できなければ大学卒業できないのであれば、試験対策を大学でやらざる得ないでしょ?ある大学では教えているけど、別の大学では教えていないなんていう認定試験があるわけないはずだから、大学入試センター試験と同じ性質を持つようになる。すると、当然出題範囲が決まり、その出題範囲に適した教科書がでてくる。

認定試験は大学入試センター試験の規模をはるかに超えた試験にならざるを得ない。全私立もこの試験を受けなければならないから。読売新聞の記事によれば分野別の試験を行なうというのだから、試験作成もとんでもない手間になる。それを毎年。8教科どころの数じゃとてもすまない。まさか、学部別に試験を行なうということもないだろうし。いったいどんだけの大きな独立行政法人を作るつもりだろう?大学入試センターだって1年をセンター試験作成に費やすのだから。

人間は工業製品じゃないのだから、品質チェックを行なうことはほぼ不可能。社会人として十分な能力なんて誰も測るすべもっていないでしょうに。

出口を厳しくするのは賛成。でも、そのためには出口を厳しくできるように規制を緩めてもらわないといけない。少なくとも

  • 留年率、就職率で大学を評価しない
  • 定員充足率で運営費交付金を削減しない
  • 新卒採用を止める。あるいは新卒の基準を「大学卒業後*年」とする

ぐらいしなければ、出口を厳しくして苦しむのは、大学と学生と保護者。すなわち社会全体が苦しむことになる。