銃・病原菌・鉄

「あなたがた白人は、たくさんのものを発達させてニューギニアに持ち込んだが、私たちニューギニア人には自分たちのものといえるものがほとんどない。それはなぜだろうか?」

この本は、ニューギニア人ヤリ氏が著者のジャレド・ダイアモンド氏に尋ねたこの質問から始まる。この質問から始まるという構成がこの本を面白く、エキサイティングにしている理由だと私は思う。本のタイトルにもなっている銃・病原菌・鉄が、ヨーロッパ人が世界を征服して言った直接の理由であると著者のダイアモンド氏は述べており、この本は「なぜ、銃・病原菌・鉄がヨーロッパで発展したのか?」という問いを1万3000年前の状態から考察している。

以下は私が意表をつかれた質問の数々である。

  • (上巻p.115)「なぜ、ピサロがカハマルカにやってきたのか。なぜ、アタワルパがスペインに行って、征服しようとしなかったのか」
  • (上巻p.193)「作物を育てるのに適した場所であるのにもかかわらず、農業が全く自発的におこらなかった地域が地球上に存在するという事実である。〜中略〜。それなのになぜ、これらの地域では農業が自然発生的にはじまらなかったのだろうか。また、地域によって農業のはじまった時期に時間差があるのはどうしてだろうか。」
  • (上巻p.263)「大陸が東西に広がっていること、あるいは南北に広がっていることが、その大陸の人々の歴史的展開に影響をあたえるとしたら、それはどんなものだったのだろうか。」
  • (下巻p.123)「征服によって国家が形成された例はいくつでも挙げることができる。〜中略〜。これらの例は、戦争やその脅威が、社会が併合されていく過程で、多くの場合、重要な役割を果たしたことを示している。しかし人類は、小規模血縁集団のなかで暮らしている時代から常に戦争を経験してきた。にもかかわらず、戦争によって社会が併合されるようになったのは、ここ一万三千年のことである。それはなぜだろうか。」
  • (下巻p.173)「われわれは、中国が統一されていることを当然のこととし、それがどれほど驚くべきことであるかを忘れている。〜中略〜。北部と南部の中国人は、なぜ、最終的に非常に良く似た言語を話し、非常に良く似た文化を形成するようになったのだろうか。」
  • (下巻p.304)「肥沃三日月地帯や中国は、後発組のヨーロッパの数千年先を行っていた。それなのになぜ、彼らはその圧倒的なリードを徐々にうしなっていったのだろうか。」

人類の発生から、全世界へ人類が散らばっていく過程。そして、なぜ、スペインがインカ帝国を征服したのに、その逆が起こらなかったのかの理由。さらには、なぜ、その理由自体が生じたのかの考察、その考察を個々のの地域:ポリネシア、中国、オーストラリア、アフリカにて検証を読む。そして、最後のエピローグで「肥沃三日月地帯や中国は、後発組のヨーロッパの数千年先を行っていた。それなのになぜ、彼らはその圧倒的なリードを徐々にうしなっていったのだろうか。」という質問のダイアモンド氏の回答を読むと、この世界の不思議というか、偶然に驚きを覚えるととともに、すべての物事は良い面と悪い面の双方を必ず持っているということを思い出さざるを得ない。

私はY日記:人間性をめぐる5冊の本というエントリーでこの本のことを知り、読みたいと思い、そして読んだが、まさに上記エントリーで言われている

私なら、「人間性をめぐる5つの本」と題して、次の5タイトルをテキストに指定し、1つにつき2−3回のコマを使って解説する。事前に読んできてほしいが、事前に読んでいない人にもわかるように解説することは可能だろう。

の「人間性をめぐる5つの本」の一冊目に入るのがうなづける考え方を変えるすばらしい本だと思った。

最初にも述べたが、この本のすばらしい点は「問い」にあると思う。別の私が好きな本である上弦の月を喰べる獅子(上)(下)で再三登場する言葉「正しい答えを得たいならば、正しく問わなければならない」。研究者の端くれたる私にとってこの言葉は座右の銘としている言葉だ。銃・病原菌・鉄の本に詰められているさまざまな問いは、まさしく正しい答えを得るための正しい問いであると思う。少なくとも私には正しく見える、あるいは納得できる問いだ。正しく問うているからこそ、その問いの答えを見つける方法を幅広い研究成果を用いて推測することができているのだと思う。そのような意味で、この本は創造的な仕事についている全ての人にとって、問いの立て方、そして、その問いへの回答の探し方を学ぶための有用な本であるともいえると思う。

追記(2008/5/4)

わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる: Google Earth のような人類史「銃・病原菌・鉄で感想がエントリーされた。「Google Earthのような人類史」とは面白い表現。